「若き日本人女性の斬新な講義にハーバードが熱狂した!」との宣伝文句で話題の新書『ハーバード白熱日本史教室』(新潮新書)が発売2か月で7.5万部と、歴史関係書籍では異例のベストセラーとなっている。
著者は、1980年生まれという若さで、ハーバード大学で米国人学生らを相手に日本史を教えていた北川智子氏だ。彼女の授業が話題を呼んだのは、「Lady Samurai」なる歴史概念が注目を集めたからだ。
北川氏は、「サムライが中心で女性がその影という状況こそが見直されるべき」と考え、「Lady Samurai=戦わずに、かつ陰で大いに活躍する女性たち」にスポットを当てた。とくに戦国大名の妻は、「ペア・ルーラー(夫婦統治者)」としてサムライと同等に扱われたという。
だが、こうした歴史認識について、日本史の専門家からは批判が集まっている。静岡大学の小和田哲男・名誉教授(戦国時代史)はいう。
「著書で取り上げている豊臣秀吉の妻・北政所(ねね)や前田利家の妻・まつなどは、殿に進言するなどしていたが、彼女たちは特殊な存在。だから戦国大名の妻をすべて『Lady Samurai』と括るのは無理がある。また北川氏は、秀吉の養子だった秀次が切腹した際、側室たちも連座で斬首されたことを『サムライらしい最期』と述べていますが、サムライとして誇りある死に方は切腹。斬首では罪人と同じですよ。
正しい歴史認識を踏まえずに学生に教えているのはどうなのか。フジヤマゲイシャレベルの間違った概念が広まって、日本の歴史学者たちは困惑しています」
※週刊ポスト2012年8月3日号