約75年間にわたるプロ野球の歴史の中には、あまり光の当たらない記録がある。たとえば、誰もが日本一の本塁打王の名前を知っていても、一番本塁打を「打たなかった」選手を知る人は少ない。そんな悲しいけどどこか笑える、選手たちの汗と涙の「不名誉記録」をご堪能あれ。
不名誉記録の本塁打部門で有名なのは、ベースを踏み忘れて新人大記録を逃した、1958年9月の広島戦でのミスターこと長嶋茂雄。記録上は投手ゴロとなって、本塁打も得点も幻になった。
この年、長嶋の成績は打率.305、本塁打29、37盗塁。ちゃんと一塁を踏んでいれば、史上唯一「新人による3割30本30盗塁」だったが、いかにも「らしい」逸話である。他には本塁ベース踏み忘れで本塁打取り消しを、1981年の広島・ガードナーがやっている(記録は三塁打)。
また、8本塁打を打ちながら7得点しかできなかった者もいる。1969年の近鉄に在籍したジムタイルは、5月の阪急戦で本塁打を叩きこんだものの、一塁を回ったところで左足肉離れを起こし転倒。そのまま担架で病院送りになったため、代走が出てホームイン、本塁打はジムタイルに、得点は代走の伊勢孝夫(現ヤクルトコーチ)に記録された。
そんなアホな、という記録も存在する。その一つがキャッチャーライナー。1965年5月に、巨人・滝安治が放った打球が、広島・安仁屋宗八投手の右ひざを直撃し、跳ね返ったボールが捕手のミットに収まった。
※週刊ポスト2012年8月3日号