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元漫画家志望の京都大学卒女性 処女作でいきなり文学賞獲得

【著者に訊け】『片桐酒店の副業』(徳永圭著・新潮社・1680円)

 * * *
 タイトルは『片桐酒店の副業』。ちなみに小説である。

「書名で検索すると、サイドビジネス関係のサイトに勘違いで載っけられちゃったりしています(笑い)」

 舞台は、近年街から消えつつある“近所の酒屋さん”。量販店やコンビニに顧客を奪われる中、亡き父の後を継いだ〈片桐章〉は〈法に触れない限り、何でもお届けします〉と謳った配達業を始め、父の代からパートに来ている〈フサエさん〉や、臨時バイト急募の張り紙につられた金欠学生〈拓也〉を巻き込んだ悲喜こもごもの騒動を、本書は描く。

〈アイドルに贈り物を手渡して欲しい〉、〈上司に悪意を〉(!?)等々、どんな注文にも淡々と応じる無愛想でどこか翳のある片桐。それは一度は封じたはずの彼の〈過去〉をめぐる、失意と再生の物語でもあった。

 昨年、ボイルドエッグズ新人賞受賞作『をとめ模様、スパイ日和』でデビューした徳永圭氏(29)は、元々漫画家志望。京大在学中から少女漫画誌に投稿を重ね、あるとき「自分が書きたいものと、求められるもののギャップに限界を感じて」小説を書き始めたという。

「そのとき生まれて初めて習作のつもりで書いたのが前作で、以前バイトしたことのある宅配便のコールセンターを舞台に漫画家志望の契約社員と産業スパイのコメディタッチな小説を、とにかく最後まで書こうと。すると反省点も当然あって、特に配達に関してはもっと掘り下げられるんじゃないかと、実は一作目で受賞できるとも思わずに書き進めていたのが本書なんです」

 確かに届けるという行為には送り手の思いや、配達人も含めた信頼関係など、様々な要素が絡む。特に片桐酒店の場合、目に見えない好意や悪意まで託されてしまうだけに責任は重大だ。

 最初の依頼は現在ツアー中のアイドル〈神田愛美〉にファンが手作りしたクリスマスケーキを届けること。依頼人のオタクぶりを見る限り警備は厳重だろうが、託された荷物はどんな手を使っても届けるのが片桐の信条だ。そして拓也を囮に見事楽屋に潜入した片桐は、期せず愛美から悩みを打ち明けられ、こう答えるのだ。〈答えは出てるんじゃないですか〉〈それより、今はするべきことがある〉〈寒い中、外では大勢のファンがあなたを待ってましたよ〉

「自分の問題は自分にしか解決できない、と同時に、赤の他人だから言えることもあって、今できることを四の五の考えずにやれと、実は片桐自身がフサエさんにお尻を叩かれてるんですけどね(笑い)。そうやって敢えて物事をシンプルに考えたりもしながら、自分に対する責任だけは逃げずに果たそうとすると、いわゆるハッピーエンドにならない場合もあるけれど、それも含めて自分で受け止めていくしかないのかなって」

 またある時は〈おじちゃん、たくはいびんのひと?〉と通りすがりの少年に声をかけられ、自作の工作物と思しき〈電車のような宇宙船のような何か〉を母親に届けてほしいと託された。手掛かりは〈ママ、ビヨウインにいるの〉という言葉と母親の氏名だけで、報酬は少年の全財産152円。

 それでももちろん届けたが、必ずしも結果は万々歳とは行かず、まして46歳の古参OL〈陽子〉が自分を笑い物にした課長に届けた悪意は、回り回って片桐の過去の傷をも疼かせるのだった。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2012年8月3日号

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