プロ野球巨人の原辰徳監督が、女性問題を巡って元暴力団員に1億円を支払っていたと『週刊文春』が報じた問題は、渡邉恒雄会長ら読売新聞グループから度々「情報源」と名指しされる前球団代表の清武英利氏が3度目の提訴に至る訴訟合戦へと発展。7月24日に改めて記者会見に臨んだ清武氏だったが、果たしてどこまで世論を味方にできたのか。危機管理専門家であるリスク・ヘッジ代表取締役の田中辰巳氏に聞いた。
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清武氏の現在の闘い方は危機管理的にいうと、「効果のない手法」といえる。
読売グループという巨大な権力に立ち向かうには、世論の追い風を受けなければツブされてしまうと会見を開くのは分かるが、清武氏のやっている言動にはいかんせん公益性が乏しく、「所詮は組織内の私怨」との見方をされてしまう。そのため、徐々に世論の関心が薄れている。
そもそも、清武氏が読売グループ並びに渡邉氏を告発した最初の会見からして失敗だった。「コンプライアンス」「内部統制」という言葉を繰り返して発したが、社会人経験のない学生や主婦らの共感はまったく得られなかったはず。世論を味方にするには、分かりやすい言葉を使うのが鉄則だ。
私だったらこう訴えるようアドバイスする。
「皆さんの家庭、学校、職場もそうでしょうが、今の時代に『黙れ! オレが黒いといったら白いものも黒いんだ!!』なんて威張り散らす人は少ないですよね。それが読売グループの中にはいるんです」
今回、清武氏は、「体力・時間・カネを消耗する訴訟をたくさん抱えるのは個人では大変で、3度目の提訴も苦渋の決断だった」と、多大な不利益を被っていることをアピールしていたが、これも効果は薄い。むしろ社会にどういう不利益をもたらすのかを、こんな調子で説いたほうがいいだろう。
「社会の公器である報道機関が確たる証拠もなく個人を攻撃したならば、これほど恐ろしい社会はありません。明日はあなたが名指しでいわれのない報道をされるかもしれませんよ」
いずれにせよ、文春の記事を巡って読売サイドが清武氏を情報源だと疑っているのも憶測、清武サイドが「原監督が本当に『清武さんへ』という手紙を書いたとは思わない」といっているのも憶測。どちらも確たる証拠や事実が浮かび上がるような闘い方をしていないので、説得力がないのは当然だ。
それは司法が解決する――といってしまえば身も蓋もなく、わざわざ会見を開く意味もない。こんなドロ試合を続けているうちは「どっちもどっち」、双方が敗者であろう。