政府による今夏の電力需給対策では、関西電力は7月2日から9月7日までの約2か月間、一昨年比15%以上の節電を利用者に要請していた。加えて関電に電力融通を行なう中部・北陸・中国の3社も5%以上の節電要請を行なっていた(※注)。
この数字は、7月9日未明に大飯原発3号機がフル稼働したことで一気に緩和された。関電では10%以上、中部・北陸で4%以上、中国で3%以上となったのである。
これまで関電は「大飯原発を再稼働すれば電力は足りる」と主張し続けてきた。節電要請の度合いを軽減することで、それを強く印象づける一方、軽減幅自体は5%と「刻んで」きた。これは、さらなる再稼働を目論んでいるからだ。
資源エネルギー庁は、18日から起動している大飯原発4号機がフル稼働状態となれば、節電要請をさらに引き下げると宣言しているが、おそらく全面的な節電解除とはならないだろう。電力マフィアは「原発をもっと動かさなければ不便で仕方がない」と国民を引き続き脅そうと考えているからだ。
動かぬ証拠がある。
6月下旬から7月初旬にかけ、節電の数値目標が厳しい関西電力や九州電力管内(10%以上)では「万が一の備えとしての『計画停電に関するお知らせ』」と題するハガキが利用者に一斉に送られた。
そこには7月2日から9月7日までの平日を6つの時間帯に分割した「計画停電カレンダー」が記され、利用者の地域がどの停電グループに該当するかが詳細に説明されている。このままでは計画停電もありうるのか――“脅迫状”のように受けとった利用者も多かった。
九州電力管内に住む会社員は憤慨する。
「ハガキには〈原則、実施いたしません〉〈計画停電に至らないよう最大限の対応を行なっている〉と小さく書いてある。だけど、こんなに具体的な停電スケジュールを郵送されれば“節電しないとヤバい”と感じるのは当然でしょう。うちの妻なんて、このハガキを見てからというもの“節電ヒステリック”がよりエスカレートした。気温30度を超える真夏日でもエアコンをつけさせてもらえない」
昨年7~9月の熱中症による緊急搬送人員は全国で3万9489人にものぼった。記録的猛暑だった一昨年よりは少ないものの、同程度の気温だった2009年と比較すれば約3倍の数だ。電力会社による過度の節電プレッシャーは、国民の命にもかかわりかねないのだ。
【※注】節電要請/九州電力では10%以上、四国電力、北海道電力(7月23日~9月14日まで)では7%以上。これらの電力会社は関電に電力融通を行なっていないので、目標数値が据え置きになっている
※週刊ポスト2012年8月3日号