娘の処女喪失――こちらから詮索しなくても、聞きたくない、知りたくもない「現実」が向こうからやってくることもある。商社マンとして頻繁に海外出張をするため家を離れることが多いHさん(50)の場合は、思いもよらぬ妻の告げ口によって発覚した。
「もう大変だったのよ、あなた!」
タイ出張から1か月ぶりに帰国したHさんに、妻は狼狽を隠さなかった。その日は夏休みで特に暑かったという。パート先のスーパーの客足が悪く、通常より2時間早く退勤した妻は、自宅に着くや違和感を覚えた。妻は、Hさんに事件当日のことを語った。
「『ただいま~』と玄関を開けるとリビングですごい音がしたの。そのあとドタバタ足音が聞こえる。泥棒でも入ったんじゃないかと思ってリビングに駆け付けたら、なんと娘と彼氏が半分裸で慌てているんですよ。2人ともTシャツを着るのが精一杯で、下はすっぽんぽんなのよ……」
2人が舞台として選んだのはリビングの白いソファ。その上に、バツの悪そうな顔を見せる娘と、今にも泣きそうな顔の彼氏が半裸で座していた。
「私、怒るに怒れなくって。だって娘は私にいつも反抗的だし、彼氏は私を見て震えているし。でも、とりあえず私はいったの、あなたたち避妊はしてるのって。そしたら彼氏のほうが『すっ、すみません』と謝った。もう呆れちゃったわ」
娘は高2、相手の男はひとつ年下の高1。聞けばこの時が初体験だったという。娘が1か月前に男と付き合いはじめたとは聞いていたが、それにしても早すぎる。娘は妻に「お父さんだけにはいわないで」と懇願したが、それは叶わなかった。続いてHさんの話。
「娘をきつく叱ってちょうだい、と妻にはいわれました。でもね、4つ上の息子と違い、娘はそれこそ眼に入れても痛くないぐらい可愛かったんです。仕事で家を空けることが多かった私ですが、毎日どんなに遅くなっても娘の寝顔さえ見れば明日もがんばろうという気になれた。その娘が我が家でエッチをしていた。それも、私が毎朝新聞を読んでいるソファの上でですよ。奈落の底に落ちた心境でした」
妻の報告を聞いたその夜、Hさんは娘の部屋のドアを叩いた。
「そしたら娘が泣きながら繰り返すんです。『お父さん、ごめんね』。最初はほっぺたのひとつぐらい叩こうとしたんですが……娘は妻より私のことを慕って育ってきた。娘の16年間が、それこそ子供の頃に公園で遊んだり、一緒にお風呂に入っていた頃のことが走馬燈のように駆け巡ってきた。やるせなくなってきて」
涙を浮かべる娘に父親は、消え入るような声で、こう諭すことしかできなかった。
「お、お前、避妊だけはしっかりとしろよ……」
事件以来、Hさんは一度もソファに座っていない。
※週刊ポスト2012年8月3日号