日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)の2012年3月期の役員報酬は9億8700万円だった。高すぎるとの声もあったこの金額について、大前研一氏は「安い」という。ただし別の会社のVIPの報酬は高すぎると指摘する。以下、大前氏の解説である。
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日産の役員報酬は、世界で事業を展開する他の主要企業と比較しながら決められており、グローバルな自動車メーカーのCEO報酬は平均1750万ドル(約14億円)で、フォードのCEOは2900万ドル(約23億2000万円)、VW(フォルクスワーゲン)のCEOは2300万ドル(約18億4000万円)である。
あるいは、ソニーのハワード・ストリンガー取締役会議長(前CEO)は4期連続の赤字(しかも2011年度は4567億円という過去最大の赤字)を出して株価を暴落させた張本人でありながら、2011年3月期は8億6300万円、業績連動報酬を全額返上した2012年3月期でも4億4950万円を受け取っている。
経営者は業績が悪かったら責任を取るのが当たり前だからストリンガーの報酬は高すぎるが、これらの金額と比べても、ゴーン社長の10億円弱は決して高くはない。
ただ、強いて問題を挙げれば、会長を兼務している親会社のルノーより子会社の日産からの報酬のほうが高いことだ。2011年度のルノーからの報酬は289万ユーロ(約2億8900万円)で、日産の3分の1以下なのである。
ルノーからの報酬は、ルノーの業績が伸び悩んでいることやルノーの株式を15%保有しているフランス政府の意向などで抑えざるを得ないのかもしれないが、やはり子会社から親会社の3倍以上の報酬を得ているというのは、日産をカモにしているという印象を、とくに日本の株主には与える。
実際、今や日産の利益がルノーを支えているといっても過言ではない。現在のルノーの時価総額は、日産の時価総額にルノーの持ち株比率を掛け算した数字と、ほとんど変わらない。つまり、ルノー分の価値は、事実上ほぼゼロなのだ。
しかも、ルノーの業績は改善していない。ゴーン社長は日産の再建には成功したが、未だにルノーの立て直しはできていないのである。ルノーを改革するためには日産と同じように工場閉鎖や従業員削減などの大リストラをフランス国内で断行しなければならないが、最大株主のフランス政府の顔色をうかがっているため、それができないのだろう。
もし、ゴーン社長がフランス政府におもねっていない、と主張するなら、彼が今後やるべきことは、まず日産とルノーの「ねじれ関係」の解消だ。両社が合併するか、日産がルノーをリバース・テイク・オーバー(逆買収)して親会社になるべきである。前述したように企業としては日産のほうがはるかに上だから、日産がルノーを傘下に収めるのが自然な形だ。
※週刊ポスト2012年8月3日号