ロンドン五輪でメダルが期待される体操の田中理恵選手。オリンピック選手に育つまでには、経済面をはじめ様々な苦労があったという。一体どんな苦労があったのか――作家の山藤章一郎氏がリポートする。
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日本体操協会理事・森末慎二氏の意見。
「いま、体操のスポンサーをする企業はありません。それでも日本が強いのは、(田中理恵選手の父)田中章二先生のような小さな集団のがんばりがあるからです。全国にちらばるこの体操部、体操クラブが田中3兄妹や内村航平の基本をつくり、そこから、高校、大学を経てオリンピックをめざすのです。
スポーツクラブの〈体操〉は絶対儲かりません。ゆかだけで数千万円します。器具にカネがかかりすぎるのです。さらに、選手の育成年齢がかぎられ、寿命が短い。体操クラブに、30代以上は所属していません。
水泳クラブならプールと水と水着があればいい。年齢も幼児から80代までを相手に営業できます」
やる気、カネ、育成期間――苦戦苦闘が立ちはだかる。
千葉県松戸市に〈セノー〉という、体育施設の機器を製造販売する会社がある。1964(昭和39)年開催の東京オリンピックで製品が採用されて以降、ここが体育に関する機器をほぼ独占している。一時、負債をかかえ、全株式79億円で〈ミズノ〉に買収されたが、跳び箱、平均台……全国の体育館、学校を〈セノー〉製品が埋める。しかも使用頻度によってたえず新しいものと替えなくてはいけない。
海外の比較的安価な機器もあるが、日本体操協会が認めているのは〈セノー製〉。〈全日本〉などの大きな社会人大会や、〈日体大〉〈ナショナルトレーニングセンター〉などの体操の本拠地もここの製品を使用する。同社カタログより。
端数切り捨て。(税込)
ゆか:1606万円
あん馬:93万円
跳馬:71万円
平行棒:98万円
平均台:70万円
吊り輪:82万円 以上――。
一、体操選手を育てる施設は経済的負担に四苦八苦している。
一、子どもは幼児期より休みない訓練が必要で、選手生命は短い。
一、卒業後の職は、運がよくて先生かコーチしかない。
森末氏に、訊く。
――今後、どうしたらいいですか。
「うーん、どうもできないですね」
※週刊ポスト2012年8月3日号