自殺した大津市の中学生は死の3日前、家族と外出する際にこう呟いたという。
「どういう風にしたら、(ずる休みと)わからないように学校を休めるだろうか」
亡くなった生徒になかった「学校に通わない」という選択肢――事件後、我が子の学校生活を慮る親たちの関心を集めるのがフリースクールだ。2010年度の全国小中学校の不登校児童の数は11万9891人。その“受け皿”としての役目を期待されている。
不登校児は、1997年度から連続10万人を超えている。しかし、教育行政の専門家によれば、国として不登校児対策がなされているとは言い難いという。
フリースクール東京シューレ(東京)代表の奥地圭子氏は、「本当は学校から逃げてもいいんですよ」と語った。
フリースクールとは生徒の自主性を重視する学習法を用い、従来の学校のような管理や評価などを行なわない教育施設である。学校法人としての認可を受けているものはごく一部で、大半は「私塾」である。奥地氏は自らの子息が不登校になった経験から1985年に同団体を設立した。
「1980年代から日本では不登校の子供がどんどん増えていきました。でも、学校に行かないと家に籠もるという選択肢しかない。学校以外にも子供の居場所が必要だと思ったんです」
現在、拠点は東京に2か所、千葉に1か所の計3つ。約120人が通い、職員は約20人。フリースクールといっても英語・数学など基礎科目の勉強時間は設けられ、希望生徒は高卒認定試験(以前の大検)のサポートも受けられる。
1992年には、フリースクールに通っていても小中学校を原籍校とすれば、出席扱いになることが文科省に認められたが(高校は2009年から)、これは奥地氏の働きかけによるところが大きいという。
「それでもどのフリースクールが出席扱いになるかの判断は原籍校の校長によってまちまち。理解が十分に得られているとは言い難い」――奥地氏の原動力になっているのが、卒業生からかけられたこんな言葉だ。
「『辛いときに居場所があってよかった。フリースクールがなければ死んでいたかもしれない』といってくれたんです。この言葉にはこちらが救われました。今後も既存の教育機関以外の選択肢があることを声を大にして訴えていきたい」
公教育だけが全てではない――ゆうび小さな学園(千葉)代表の内堀照夫氏もそう主張する。現在、生徒数は56人。同学園にはカリキュラムも時間割もない。決まり事は皆で昼の献立を決めて昼食を作るだけだ。
「公教育の何が問題かというと、学習指導要領などの規則に支配されていることでしょう。例えば図工の授業でいえば、ナイフを使わせるのは何年生から、電動ノコを使わせるのは何年生からと細かく決められている。でも、うちの学園では年齢など関係なく好き放題に使わせている。危険はないのかと指摘する人もいますが、時には怪我をすることも勉強です」
小学高学年から不登校になり、同校に通ったという20代男性がいう。
「いつ行ってもいい、いつ帰ってもいい。実際は楽しかったから毎日通っていましたけど、そう思うだけで心理的余裕ができました」
※週刊ポスト2012年8月10日号