国内

原発反対デモを積極的に報じぬ新聞 ドラマチックさないから

 7月6日、原発反対の首相官邸前で抗議行動がおこなわれ、16日は東京・代々木公園で「さようなら原発10万人集会」が開催された。さすがにメディアも無視できない規模となっているが、ある新聞は積極的にとりあげるものの、消極的な新聞もあるという。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。(文中敬称略)

 * * *
 東京・永田町の首相官邸と国会議事堂前に繰り広げられる原発反対の抗議行動が盛り上がっている。数百人から始まった行動は、いまや数万人規模に膨れあがった。

 雨の日には参加者が減るだろうと思いきや、母子連れを含めていっこうに衰えをみせない。7月20日は雨だったが、各紙が記事にした。それは鳩山由紀夫元首相がポンチョ姿で官邸前に現れ、群衆にスピーチしたからだ。

 いつもはこの話題を地味に扱う読売新聞も鳩山に焦点を当てて「民主党執行部は、いらだちを強めているが、鳩山氏が野党の内閣不信任決議案に同調する可能性もあるため、表だっての批判を避けるなど対応に苦慮している」と政治面で写真付きで報じた(21日付)。

 では社会面はどうかというと、1行もない。鳩山登場がニュース価値を一段高めた格好だ。

 毎週末に数万人規模の人々が官邸前に集まって抗議行動を繰り広げるのは、1960年の安保反対闘争以来である。それだけでも十分報じるに値すると思う。だが、ある新聞(たとえば東京新聞)が積極的に報じる一方、別の新聞が消極的なのはなぜか。

 こうした抗議行動やデモをどう扱うかは、実は新聞の立ち位置が如実に表れる。現場の記者よりもデスクや部長、あるいはもっと上の幹部の意向が反映されるからだ。現場の記者が問題意識を持って記事を書こうと思っても、実際に紙面に載るかどうかは普通の記事以上に幹部の判断がモノを言う。

 社会部記者は事件や事故が起きれば、デスクに指示されなくても取材して記事にする。それが劇的であれば、黙っていても紙面に載る。だが、デモという事象は記者から見ると、見た目は別にドラマチックでもなんでもない。大勢の人が集まって「原発再稼働反対」と声を上げた。以上、ピリオドだ。

 何度繰り返されても同じだから、見たままを描写するスケッチ報道にとどまるなら、ニュース価値は小さくなる。そこから一歩踏み込んで書こうと思えば、必然的に社会的背景や主張の中身、参加者の気持ちなどに深く切り込んでいかなければならない。

 だが、そこまで突っ込んだ記事を掲載できるかどうかは、記者個人の判断を超えてしまう。デスク以上が「よし、いいぞ。それで行け!」と後押ししてくれなければ取材に動けず、書いたところで紙面にも載らない。

 勝手に取材して記事を書こうとしても幹部の判断と異なれば、良くて「はい、ご苦労さん」でボツ。悪くすれば「お前は何を勝手に取材してるんだ」と怒られるのが関の山である。そうなれば、やがて記者の出世にも響きかねない。このあたりは新聞によって微妙に「空気」が違う。

 鳩山登場はいつもと同じ抗議行動に目新しさと政治性を付け加えた。中には「鳩山が温室効果ガス25%削減を言い出したから、それまで以上に原発推進になったんじゃないか。そんな鳩山がいまさら反対なんて無責任だ」という批判もある。だが、新聞を作る側の理屈で言うと「鳩山が登場したから記事になった」という話になる。

 新聞は新奇性をなにより優先するから、別に反原発に肩入れするつもりはなくとも記事にする。デモをする側と報じる側は、かくも互いの行動原理と意図がずれている。

 朝日新聞は7月21日付から社会面で「街頭へ」というワッペンを貼り付けて抗議行動の連載記事を始めた。朝日は本気で反原発に舵を切ったのだろうか。少なくとも現場の記者は「やる気になった」と思いたい。

※週刊ポスト2012年8月10日号

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン