メジャー昇格からわずか2か月。極度の不振を続けたレイズ・松井秀喜(38)は7月25日、戦力外通告を受けた。その直前、後半戦が始まった7月13日、ジャーナリストの出村義和氏が松井にインタビュー、その心中を聞いていた。
* * *
――今日は代打要員として、2度もネクストバッターズサークルに入ったが、前の打者がアウトになって出番はなし。悔しい展開でしょう。
「いやァ、別に特別な思いは全然ないです。野球ですから、いろいろな展開がありますから。仕方ないですよ」
――悔しさ、無念さ、そんな気持ちをコントロールするのが難しいように見える。
「そんな大袈裟な。今までと一緒です。今は足を痛めて(左足太もも裏痛)試合に出る頻度は減っていますが……、気持ちは基本的に変わってないです」
――打率1割台という現状は、キャンプに参加できなかったことが大きいのか。
「ちょっとわかりません。(シーズンが)終わってみないとね。でも(苦笑しつつ)、これまでだって月間打率.が1割台という時期はあった。大袈裟にとらえないでください」
――しかし、現在の立場での1割台とでは意味が違う。
「シーズンはまだ半分ですし、僕はまだ1か月半しかやっていない。そんなに深刻に考えているわけではありませんよ」
――レイズはポストシーズン進出を狙うチーム。戦力をシビアにみている。立場が危うくなることも考えられるが。
「それは結果次第です。結果。今までもそうだったんですから。ホントに大袈裟に考えないでくださいよ、出村さん」
自ら口にする「結果」は、限りなく厳しい。それは私が聞くまでもなく本人が受け止めていることだろうし、並の選手ならば“わかっているんだから、それを聞くなよ”という苛立ちを露わにしても不思議ではない。それでも松井は何度も頷きながら、柔和な表情を崩さずに答えた。
だが、妙に気になったのは、松井は答えの最後に「大袈裟にとらえないでください」と何度も付け加えたことだった。
私を含め、メディアやチーム関係者が見れば、松井の立場が極めて危ういことは――それを口にするかしないかは別として――誰もが“大袈裟ではなく”そう考えている。周囲に気を遣う性格の松井が、そうした空気を感じなかったはずはない。不自然なほどに繰り返される「大袈裟ですよ」の言葉は、10数日後に訪れる「その時」を松井自身が覚悟していたことの裏返しだったのだろうか。
※週刊ポスト2012年8月10日号