7月23日にマリナーズからヤンキースに電撃入団したイチロー(38)だが、全米最大のスポーツチャンネル「ESPN」の報道によれば、同GMは「イチローが呑んだ条件」として以下を挙げたという。
●守備位置を右翼から左翼に変更
●打順は下位打線
そして最大の驚きは、
●左投手の登板時にはスタメン落ちがある
という項目が盛り込まれていたことだ。これらの条件について、ヤ軍関係者は極めてビジネスライクな言い方をした。
「選手の名前が“イチロー”であることは特別だ。だが、獲得したのはあくまで打率.261の打者。我々の評価は3か月で225万ドル(約1億7700万円)だ」
そして「ポストシーズンのロースター(メジャー登録枠)入りが確約されているわけでもない」とも付け加えたのである。
イチローとマ軍の間にはトレード拒否条項があり、イチローがヤ軍の条件を“足元を見られた”と思えばトレードは破談となる。それでもトレードは成立した。つまり、イチローはその「屈辱的な通牒」を受け入れざるを得なかったと見るのが自然だろう。
ジラルディ監督は、「このチームに欠けているスピードが彼にはある。守備も任せられる」と期待を口にした。また、「本塁打を量産する強力打線ではリーグ優勝できても、接戦が確実なポストシーズンを勝ち抜けない。イチローにはスモールボール(緻密な野球)への対応力がある」(ヤ軍番記者)との見方もある。
だが、昨季は11年連続200安打を達成できず、今季前半戦を打率.2割6分台で折り返したイチローの「衰え」は顕著だ。
昨季はゴロアウトが急増し、“安打製造機”の大きな比率を占めていた内野安打数は激減した。鉄壁の守備では「UZR/150(※)」がマイナス6.7を記録したことから、走力の低下も指摘されている。
また、打率.以上に出塁率が重視されるMLBで、昨季までのイチローの出塁率は.370。通算打率.326に比べると決して高くない(スラッガータイプの松井秀喜の場合、MLB通算打率.285に対して出塁率は.363)。「1番打者としては四球数が極端に少なく、実はスモールボール向きの選手ではない」(MLBアナリストの古内義明氏)といわれるように、ヤ軍の期待に沿えられるかどうかは微妙だ。
※UZR/ultimate zone ratingの頭文字で、「選手の守備能力」を測る指標。平均的な選手が150試合(1シーズン)を守った時の数値を「±0」として、それよりも守備に何点分貢献したかを示す。例えば「+3」は1シーズンに失点を3点防いだことになる。昨季のイチローの「-6.7」は失点を6~7点増やしたことを意味する。
※週刊ポスト2012年8月10日号