怪物右腕の夏が終わった。
日米スカウトがバックネット裏に勢いする異様な雰囲気となった夏の甲子園・岩手大会決勝(7月26日)。大谷翔平擁する花巻東は盛岡大付に3-5で敗退。自慢のストレートを狙い打たれ5失点を喫した。
ちょうど1週間前に行なわれた準決勝において、大谷は高校生として史上最速となる160キロを記録。俄然、注目度は高まった。
「160キロは、入学した時から監督と約束し、目標にしてきた数字でした」
高校入学時の大谷は、186cmの長身ながら、体重は65kgしかなく、まるでえんぴつのような身体をしていた。
それでもスピードガンは143キロを計測し、佐々木洋監督は大事に、大きく育てようと心に秘めた。佐々木監督が内実を明かす。
「本当は160キロではなく163キロを目標にしよう、と大谷とは話していたんです。目標設定の仕方として、OBである菊池雄星(現西武)のような投手になりたいと思っていたら、雄星を超えることはできない。160キロを出したいと思っていたら、158キロにしか届かない。だからこそ、あえて3キロプラスしろとね」
163キロといえば、クルーン(元巨人ほか)の持つ日本プロ野球記録を1キロ更新する球速である。高校球児にとって雲をつかむような数字だったはずだが、大谷はひたむきに、そして真摯に向き合い、大台を目指していった。
※週刊ポスト2012年8月10日号