古くは雑誌、現在はネットで根強い支持を得るのが「素人投稿」である。 人は、自らの体験を誰かに伝えたい、話したい衝動を持つ生き物だ。
「編集部には『こんな体験をしたんだけど、使えませんかね』という電話がよくかかってきます」と語るのは二見書房マドンナメイト文庫の船津歩編集長である。同社は1997年から「素人投稿」という文言を最初にタイトルに使用した文庫本を発刊。シリーズは、既に30冊以上を数えた。
「読者はリアリティに惹かれているから、文章が上手すぎると逆に売れない。官能小説とはまるで逆です。小説には『面白かった、今度はこういうのを書いてほしい』との声が編集部に寄せられますが素人投稿の感想は『ありがとう、幸せになれた』となる。他人の物語を追体験することに、悦びを得ているんでしょう」
熟年投稿雑誌「性生活報告」も根強いファンを持つ。固定読者は65~80歳だ。穴見英士編集長が分析する。
「誰にでも人に喋ることのできない性体験がある。でも老境に入った方たちにとってそれは“隠したい”から“話したい”に変わるんです」
願望は男女を問わない。1916年に創刊された「婦人公論」で根強い人気を誇るのが性に関する読者投稿だ。 三木哲男編集長に話を聞こう。
「性描写も多いけど、本当に読んでほしいのは背景にある思い。不倫や中絶なども彼女たちにとっては『そうせざるを得なかった理由』がある」
一方、己の裸そのものを投稿する人もいる。「ニャン2倶楽部」(読み方は「ニャンニャンクラブ」)の創刊編集長・夏岡彰氏はこう話す。
「投稿者の声をリサーチしていると女の人の方が投稿に積極的みたいなんですよ。女の人は、恥ずかしいとかいいながら、内心ではもっと綺麗に写りたい、褒められたいといった意識がある。その矛盾する感情が雑誌にパッションとして滲みでている」
投稿はなにも限られた一部の人々の趣向ではない。短い文章や画像を気軽に投稿できるSNSには、毎日、私生活を晒した写真や文章が溢れかえる。
自分だけの秘密を話したい、内面を晒したい。そんな人間の欲望はあなたの奥底にもきっと眠っている。
※週刊ポスト2012年8月10日号