イチロー(38)が7月23日にマリナーズからヤンキースに電撃移籍した。移籍直後のマ軍戦では「ライト・8番」、俗にいう“ライパチ”を務めたイチローだが、この起用さえもジラルディ監督の“温情”だった。
「ヤ軍の正右翼手はスウィッシャー。イチローの守備は優れているが、右翼専門のスウィッシャーにコンバートを求めるほどの価値はない。マ軍戦はライトスタンドに詰めかけたイチローファンへのサービスだ。
日本のメディアは“ライト・1番”を期待するだろうが、ニューヨークに戻れば“レフト・8番”が彼の役割だ」(米紙コラムニスト)
入団会見でイチローは「左翼を守った経験もある」と殊勝な姿勢を見せ、スポーツ紙はヤンキースタジアムの広い左中間を紹介しつつ、「今度はエリア31(※)ができる」と持ち上げる。
だが、「レーザービーム」と称される強肩に絶対の自信を持つイチローにとって、「守備が苦手で肩に不安がある選手の指定席」とされる左翼に押し込められ、“ライパチ以下”の「レフパチ」に甘んじることは屈辱以外の何ものでもないだろう。
さらにいえば、「正左翼手」の立場さえも期間限定だという。MLB評論家・福島良一氏が語る。
「高齢化が著しいヤンキースにとって38歳のイチローは補強候補の対象外。それでも獲得したのは、昨季盗塁王を獲得した28歳の正左翼手・ガードナーが肘の故障で今季絶望となったからで、イチローはあくまで彼のスペア。ガードナーの復帰時期次第ですが、基本的にはシーズン終了をもって放出されるでしょう」
2008年、ヤ軍は正捕手のポサダ(今年1月引退)が故障した際に、「史上最高の捕手」と呼ばれたI・ロドリゲス(今年4月引退)を7月30日のトレード期限寸前にタイガースから獲得した。だが、ポサダ復帰の目処が立つとシーズン終了時にお払い箱にした。
「ロドリゲスはイチローと同じく、将来の殿堂入りが確実な選手。そんな大物にもシビアに戦力外を告げる。それがMLB、とりわけヤンキースの厳しさなのです」(前出・福島氏)
※エリア31/イチローの超人的な守備からセーフコフィールドの右翼は「エリア51」と呼ばれていた。由来はネバダ州にある米空軍の機密飛行基地「エリア51」。イチローの背番号が31に変わり、守備位置がレフトになることから、ヤンキースタジアムの左翼を「エリア31」と呼ぶ動きがある。
※週刊ポスト2012年8月10日号