国際情報

中国「ついに一輪車経済の崩壊が始まった」と浜矩子氏が指摘

 図体はやたらとデカイが、その姿は歪で不安定――それが中国経済だ。勢いよく走っているうちはいいが、いったんよろけ始めると、世界経済の足を引っ張り、奈落の底へ道連れにしかねない。同志社大学大学院教授の浜矩子氏がユーロ危機より怖い中国経済崩壊の可能性を分析する。

 * * *
 私は以前から中国経済のことを「一輪車経済」と呼んできた。ひたすら成長することで繁栄と安定を確保し、やっとのことでバランスを取っている、という意味である。まさに曲芸的で、車輪の回転が速ければいいが、遅くなれば不安定になり、倒れてしまう。

 これまで中国は投資と輸出という2つのエンジンをフル回転させて「一輪車」を高速運転してきた。ところが、ここへきてその2つのエンジンの回転が鈍くなりつつある。

 2008年の北京五輪、2010年の上海万博の開催でインフラ整備へ巨額投資を行なってきたが、その種の“ネタ”は尽きている。また、2008年9月にリーマン・ショックが起こると、2年間で4兆元(当時のレートで約57兆円)もの財政出動を行なったが、過剰流動性によってインフレが起きてしまい、今、巨額の財政出動はやりにくい。

 輸出も欧州危機の影響が顕著だ。2007年以降、EUは中国にとって最大の輸出市場であり、中国の輸出全体に占めるEU向けのシェアは20%に及ぶ。それだけに欧州危機の影響は大きく、今年1~5月の累計で、中国からのEU向け輸出は前年同期比で0.8%減。その影響で輸出額全体は前年同期比で8.7%増にとどまった。2011年通年で20.3%増だったことを考えると減速は明白だ。

 輸出の減速を大きくしている要因は、中国が「世界の工場」になっていることだ。

 今や中国は粗鋼の生産量も自動車の生産量も世界一で、「世界の工場」と呼ぶに相応しいが、その中身はかつての「世界の工場」とは根本的に異なる。実はそこに中国経済が抱える独特のリスクがある。

 まずは18世紀後半に産業革命を起こしたイギリスが、次いで20世紀に入ってからアメリカが、そして第2次世界大戦後は日本が「世界の工場」となった。これらの国々の工場は、あくまでも自国の資金を投じることで建設され、自国の人々によって運営されていた。

 ところが中国の場合、確かに工場は中国国内に存在するが、それらは外資系企業が運営するものが中心だ。

 つまり、「中国が世界の工場になった」のではなく、「世界が中国を工場にした」のだ。

「一輪車経済」は、それを支える資本と経営が借り物という面が強い。借り物ゆえに世界経済の影響を受けやすい。例えば、EU経済が大幅に減速すると、単に中国企業によるEUへの輸出が減るだけでなく、「中国を工場にしている」外資系企業が中国からEUへ輸出する量も減少する。

 輸出が減れば、当然、「世界の工場」は縮小せざるを得ない。それに加え、今、賃金上昇と労働争議という2つの難問が持ち上がっている。

 中国では長年「1人っ子政策」を続けてきた結果、労働力人口(15~64歳)の増加率はどんどん落ち込み、2015年をピークに減少に転じると見られている(中国社会科学院の予測)。需要よりも供給が少ない状態になれば、当然、賃金の上昇をもたらす。

 また、2年余り前から激しい労働争議が頻発している。

 2010年5月、広東省にある台湾系電子機器メーカーの工場で過酷な労働環境に耐えかねた労働者の自殺が相次ぎ、それがニュースになった。すると、直後に同じ広東省にあるホンダの部品工場でストライキが発生したのを皮切りに、翌6月にかけてドミノ的に、現代自動車系やトヨタ自動車系の企業、さらにはカールスバーグが出資したビールメーカーでもストが起こった。

 こうした労働争議は今も続いている。もともと中国には労働組合は政府公認の「中華全国総工会」しかなく、スト権は認められていないが、政府は違法ストを事実上黙認してきた。ガス抜きをして不満が政府に向かうことを避けるためだ。

 こうした事態を嫌い、外資系企業の工場が海外に逃げようとしている。ファーストリテイリングは、今年中に全生産に占める中国での生産割合を現状の約85%から70%に引き下げることを計画している。

 アパレルと並んで日本企業の中国進出の象徴だった電子部品の分野でも、プリント基板の大手メイコーは、2~3年後には中国に代えてベトナムを最大の海外生産拠点にしようとしている。これは日本企業に限った話ではない。

※SAPIO2012年8月1・8日号

関連キーワード

トピックス

豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
フジテレビの取締役候補となった元フジ女性アナの坂野尚子(坂野尚子のXより)
《フジテレビ大株主の米ファンドが指名》取締役候補となった元フジ女性アナの“華麗なる経歴” 退社後MBA取得、国内外でネイルサロンを手がけるヤリ手経営者に
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(時事通信フォト)
《「心神喪失」の可能性》ファストフード中学生2人殺傷 容疑者は“野に放たれる”のか もし不起訴でも「医療観察精度の対象、入院したら18か月が標準」 弁護士が解説する“その後”
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと住所・職業不詳の谷内寛幸容疑(右・時事通信フォト)
〈15歳・女子高生刺殺〉24歳容疑者の生い立ち「実家で大きめのボヤ騒ぎが起きて…」「亡くなった母親を見舞う姿も見ていない」一家バラバラで「孤独な少年時代」 
NEWSポストセブン
6月にブラジルを訪問する予定の佳子さま(2025年3月、東京・千代田区。撮影/JMPA) 
佳子さま、6月のブラジル訪問で異例の「メイド募集」 現地領事館が短期採用の臨時職員を募集、“佳子さまのための増員”か 
女性セブン
〈トイレがわかりにくい〉という不満が噴出されていることがわかった(読者提供)
《大阪・関西万博》「おせーよ、誰もいねーのかよ!」「『ピーピー』音が鳴っていて…」“トイレわかりにくいトラブル”を実体験した来場者が告白【トラブル写真】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
19年ぶりに春のセンバツを優勝した横浜高校
【スーパー中学生たちの「スカウト合戦」最前線】今春センバツを制した横浜と出場を逃した大阪桐蔭の差はどこにあったのか
週刊ポスト
「複数の刺し傷があった」被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと、手柄さんが見つかった自宅マンション
「ダンスをやっていて活発な人気者」「男の子にも好かれていたんじゃないかな」手柄玲奈さん(15)刺殺で同級生が涙の証言【さいたま市・女子高生刺殺】
NEWSポストセブン