大リーグ・マリナーズからヤンキースに電撃移籍したイチロー(38)だが、実際にどの程度活躍できるものなのか。MLBアナリストの古内義明氏はこう語る。
「イチローは“自分が打って、かつチームが勝つのがベスト”と考える。オリックス時代にしてもマ軍時代にしても、優勝を義務づけられていないチームでは個人成績でアピールするしかない。それがこれまでの好成績のモチベーションになってきたわけですが、どんなスター選手でも“世界一を目指すための駒”になるヤ軍では、その考えは許されません」
数年前、イチローは近しい人物に「A・ロッドが羨ましい……」と漏らしたという。かつてマ軍の中心打者だったA・ロッドが実力を買われて最終的にヤ軍の一員となったことと、優勝から遠ざかるばかりのチームに身を置く自身の境遇を比較したのだろう。
が、そのA・ロッドもヤ軍入団直後は個人記録狙いのバッティングやメディア対応の拙さが仇となり、当時の名物オーナー、スタインブレナー氏から酷評され、ファンからは「自分勝手な選手は要らない」とブーイングを浴びた。それまで長年務めてきた遊撃手のポジションも“ヤ軍の象徴”であるジーターに譲っている。
全盛期に移籍したA・ロッドでさえこの扱いだったのだから、下り坂にあるイチローは、彼以上に厳しい立場に置かれるだろう。
そんなイチローに光明はあるのか。MLB評論家・福島良一氏は「来年以降も彼がピンストライプを着るには、3か月間で全盛期並みの好成績を残すしかない」という。
それを求めるのは酷な話かもしれない。だが、数十年来の交流を持つスポーツジャーナリストはこう語る。
「第2回WBC(2009年)では、序盤の絶不調で“不要論”“限界論”も囁かれたが、決勝でのタイムリーでそうした声を吹き飛ばした。
悪い言い方をすれば“手抜き”だが、そうした時に“帳尻合わせ”をやってのけるのもイチローの特徴。ヤ軍移籍後の初打席でクリーンヒットを放ち、直後に盗塁を決めてみせたのも、“やろうと思えば簡単にできる”というアピールが込められていたのだろう」
そんな姿勢もヤ軍では「非常識」と見なされるが、一方でイチローが常識を超える技で天才打者の座を得てきたこともまた事実だ。「50歳まで現役」を掲げるイチローが、この屈辱をハネ返す姿を見てみたいというのも偽らざるファン心理だろう。
※週刊ポスト2012年8月10日号