高木道郎氏は1953年生まれ。フリーライターとして釣り雑誌や単行本などの出版に携わり、北海道から沖縄、海外まで釣行している。その高木氏が、“釣聖”と呼ばれた幸田露伴のエピソードを紹介する。
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昔から噺家、歌手、俳優といった芸能人には名人級の釣り人が数多くいて、作家にも趣味の域を超えたアングラーが少なくない。井伏鱒二、開高健、夢枕獏などが有名だが、『五重塔』や『風流仏』で知られる明治の文豪・幸田露伴は“釣聖”と呼ばれるほどの名人だったらしい。
露伴はクロダイ釣りを題材にした小説『幻談』をはじめ、釣りに関する小説や随筆や詩歌をたくさん遺している。なかでも、明治42年、シンプルな解説図付きで文芸誌に発表された『鉤の談』は、釣りバリについての論証を展開したユニークな随筆である。
露伴は、西洋にはほんの数種類しかない釣りバリの形が、日本では700種以上もあることを紹介しながら、「鉤の種々の形や大小の生ずる所以」を、「第一は餌料の為」、「第二は魚の性質によって」、「第三には獲り方の相違から」と分析する。
つまり、釣りバリはエサとの相性が重要で、対象魚の口の形、食べ方や生態、獲り方=仕掛けの種類や釣り方との適合も考えて、形、大きさなどを選ぶ必要があるということだろう。
※週刊ポスト2012年8月10日号