大津いじめ自殺事件で槍玉にあがったのが、二転三転した市教育委員会の記者会見だ。当初、教育長は「いじめと自殺の因果関係は判断できない」と繰り返してきた。
だが、生徒へのアンケートで判明した「自殺の練習をさせられていた」という証言を突きつけられると、教育長は狼狽。事件があった中学に滋賀県警の強制捜査が入った翌日には、「いじめも自殺の一因」だと会見で認めることになる。
一連の会見からはいじめを隠蔽しようという意図を疑われてもしかたがない。
実は、教職員向けに、不祥事発生時の記者会見研修なるものが行なわれている。その実態を知ると、隠蔽も起こるべくして起こったことがわかる。
茨城県つくば市に独立行政法人・教員研修センターという施設がある。現役の校長や学年主任などの研修を行ない、資質を高めることを目的としており、学校経営や人事管理、そして学校における危機管理を学ぶ講座もある。
「クライシス・コミュニケーション」(危機管理広報)は記者会見などでの情報開示の仕方を学ぶ講座である。実際に起きた事件・事故などを題材にして、学校としての対策をシミュレーションする。
講座のハイライトは、マスコミ関係者を講師に迎えての模擬記者会見だ。講師経験者に話を聞こう。
「4~5人の班で学校側と記者側に分かれて、交代で実際に会見を行なうんです。記者側の先生は会見中の先生にデジカメのフラッシュをバシバシと浴びせかけて、『責任はどうとるんですか?』『人一人の命が亡くなっているんですよ』などと本番そっくりの追及をする。矢面に立たされる先生の中には、涙を流す人もいました」
先生たちに記者役も演じさせるのは、自らの置かれた立場を理解させる目的からだ。講師が見た中には今回問題となった教員の隠蔽体質が垣間見える会見もあった。
「臨海学校で悪天候にかかわらずハイキングを強行して死亡事故が起きたというシミュレーションだった。学校側の責任は明らかな事例だったが、ある校長は『この事実を認めると学校の信頼が失墜するので、ここは人災ではなく、天災だったで押し通す』という方針で会見に臨んでいました。さすがに記者役の先生たちからも激しい追及を受けていましたけどね」(同前)
別の講師経験者によれば、
「ある先生は最初に謝罪をしたのですが、記者から『今の謝罪は、誰にむけてのものなんですか?』と聞かれて、言葉に窮してしまった。とりあえず謝ればいいとだけ考えていたのでしょう」
かつてメイン講師として講座を受け持ったことのある広報コンサルタントの石川慶子氏がこう振り返る。
「校長や副校長、教頭など、役職が上がるに従って、子供たちや保護者への配慮よりも、教員や組織を守らなければという考えになりがちでした。また、『ここで謝罪してしまったら、あとあと裁判で不利にならないか?』という質問も多かった。そういう態度で臨む会見では、信頼回復は望めません」
この研修センターには渦中の大津市教育委員会も数名の教員を毎年派遣している。彼らの目に教育長の会見はどう映っただろうか。
※週刊ポスト2012年8月10日号