高校野球の甲子園大会がまもなく開始するが、青春甲子園の舞台裏を覗いてみると、“策士”たちの知略が張り巡らされていた。ノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。<文中敬称略>
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突出した個の力がなくとも、指揮官の采配によって勝利をたぐり寄せることは可能だ。その代表格が、松井秀喜への5連続敬遠を命じ、甲子園を埋めた高校野球ファンから“帰れ”コールを浴びた明徳義塾監督の馬淵史郎だ。馬淵は、甲子園において20大会連続初戦勝利という記録を持つ。甲子園で最も嫌われた男は、甲子園の戦い方を最も熟知した指揮官のひとりといえる。
「大投手、大打者がいればそりゃあ楽でしょうが、そうそう松井のような選手は生まれない。高校野球で確実に勝つための一番良い方法は、1番バッタータイプを9人揃えることですよ。出塁率、選球眼、脚力、つまり野球センスのあるやつを並べれば勝つ可能性は高まる」
20年前、第74回大会の星稜(石川)戦で講じた策に、馬淵は今も後悔していない。
「潔く勝負して散ったら、喜ぶのは相手とお客だけですよ。甲子園で勝つための練習をやってきて、その甲子園で負けるための作戦を立てる監督なんておらんでしょ? 5連続敬遠も、勝つための策だった。後悔するぐらいなら、最初からやっていません」
その言葉を裏付けるように、7月24日の高知大会決勝では、相手の4番打者を「5与四球」で封じ、2対1で高知に延長12回のサヨナラ勝ち。3年連続14度目の「夏の切符」を手にした。20年前を彷彿とさせる采配だったが、「監督が腹を決めれば選手も決める。よく頑張ってくれた」と馬淵は満面の笑みを零した。
※週刊ポスト2012年8月10日号