毎週恒例となった首相官邸周辺で行われる脱原発デモ。政府が原発再稼働に本格的に舵を切った6月8日ごろから、幼児や小学生などの子供を連れた女性などが多く見られるようになった。
振り返れば母親たちはこの1年余りの間、不安に振り回され続けてきた。放射能による健康被害がより深刻なのは、大人よりも子供だ。母乳や水など、赤ちゃんが口にするものからセシウムが次々と検出されたことで、母親たちには衝撃が走った。
しかし、政府は「ただちに健康に影響はない」と繰り返すだけ。行き場のない不安と不満を積み重ねていくなかで、「脱原発」の思いを強くした母親は多い。
5才の子供を連れて「人生で初めてデモに参加した」という都内在住の主婦(26才)がいう。
「親なら誰もが子供には健康に育ってほしいと思っています。牛乳や果物など、子供の食事から放射性物質が出ていると聞いて恐ろしかった。子供のために、大人として責任のある行動をしたくてここに来ました」
千葉県流山市在住の主婦(60才)は、原発事故後、周囲の環境が一変した。
「私が住んでいる流山市には、放射能のホットスポットがあります。それなのに除染は進まないし、子供を持つ家族は遠くに引っ越して人口がどんどん減っています。もう二度と同じ過ちを繰り返してはいけないんですよ」
そうした思いを抱えてやってくる母親たちを慮って、いつしかデモの列には、家族連れ専用の「ファミリーエリア」が設けられるようにもなった。
人が人を呼び、6月15日は1万2000人、6月22日は4万5000人が集結。野田首相が出席し、官邸の中で行われていた「夏の節電対策会議」に向けて、「再稼働、反対」とメッセージを送り続けた。
参加者の中には、ミュージシャンの坂本龍一(60才)、作家の落合恵子(67才)ら著名人もいたが、登場人物次第でデモの盛り上がりが一気に冷めることもある。
7月6日には鳩山由紀夫元首相(65才)が参加。
「官邸と国民の声がかけ離れている」
と威勢よく話したが、周りは「お前がいうなよ」と失笑気味。だけど、「ニュースになるなら、ま、いっか」と許してしまう。「再稼働、反対!」、この一点で共有できる人はすべてのみ込んでしまう。それが官邸前デモに流れる“暗黙のルール”だ。
※女性セブン 2012年8月16日号