『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)に出演中の脳科学者・澤口俊之さんが作家・芥川龍之介作品を脳科学の観点から分析した。以下は澤口氏の解説だ。
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さて、芥川龍之介を脳科学的にみると、彼は典型的な「卓越脳」の持ち主だったといえます。「卓越脳」とは、学術用語で非常に高い知能(知能指数IQ)を持つ人の脳のことをいいます。
幼いころから成績優秀で旧制第一高等学校(現東京大学教養学部)に無試験で入学したエピソードや、その理知的な作品からみて、彼の知能指数IQは抜群に高かったことがわかります。
同時に、芥川は偉人の脳シリーズでお話ししてきた「特殊脳」(傑出した理系の才能など、独特な脳)の持ち主だったとも推測できます。これまで取り上げてきたアインシュタインや坂本龍馬は、「特殊脳」の持ち主ではあっても、それほど高いIQを持っていなかったと考えられることを紹介しました。一方、前号の吉田松陰はその逆で、高いIQを持ちながらも、「特殊脳」の持ち主ではなかったと推測できると記しました。
さて、結論からいうと、芥川龍之介の場合は、高いIQを持ち、かつ強い不安感を抱きやすい脳、すなわち軽い「特殊脳」の持ち主だったと考えられます。
芥川は、35才という若さで服毒自殺したことで有名です。ところが、知能(IQ)は、 高いほど自殺率(自殺未遂も含む)が低いというデータがあります。そのため、芥川の自殺は脳科学的にはやや不思議なことに感じられます。
では、彼の自殺を「不安」という観点からみるとどうでしょうか。
芥川は、胃腸の病気や不眠に悩まされていたようですが、おそらく「不安」によるストレス性のものだったと思われます。芥川の自殺の理由は、彼が抱き、書き遺してもいた「ぼんやりした不安」によるものといわれています。また、彼の遺書には、〈僕はこの二年ばかりの間は死ぬことばかり考へつづけた〉とあることから、彼が「ぼんやりした不安」を抱き続け、自殺を長期的に計画していたことが伺えます。
このように、不安感がある一定のレベルを超えると、脳内のアセチルコリンやダイノルフィンなど、記憶力や苦痛を和らげることに関係する神経伝達物質の量が減少してしまいます。このため、脳が通常とは異なる状態になり、自殺しやすくなってしまうことがわかっています。どうやら芥川の脳はこうした状態にあったといえそうです。
※女性セブン2012年8月16日号