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元幕内・山本山 時天空、朝赤龍、黒海との八百長相撲明かす

「いまもなお、土俵の上には免れて恥なき八百長力士たちがいる」。昨年春、八百長に関与したとして角界を去った元幕内力士・山本山(本名・山本龍一=28歳)がついに重い口を開いた。語られたのは、国技にはびこる八百長互助会の深奥。元山本山は実名で3人の現役力士の名前を挙げた。

 2009年1月場所で幕内に昇進した山本山は、その場所もすべてガチンコ相撲で8勝7敗と勝ち越し。続く3月場所も8勝7敗と勝ち越し、5月場所には自身の最高位となる前頭9枚目に昇進した。しかし、彼はこの場所を境に自ら望んで八百長に手を染めることになる。
 
「自分は『幕内最重量記録』と騒がれて、注目されていましたからね。入幕してからも、ガチンコでやれるところまでやろうと思っていました。でも、幕内で15日間取ると心身ともにクタクタになるんです」(元山本山・以下「」内同)
 
 そして、こう続ける。
 
「幕内3場所目の2009年5月場所もガチンコで取り始め、序盤は不戦勝もあって4勝1敗。でも6日目から4連敗してしまい、体力、気力ともに「もう限界だ」と感じました。
 
 それでA関に『もう限界ッスわ』と相談しにいったんです。するとA関は当時幕内力士だった学生相撲出身のC関(勧告で引退)の名前を挙げ、直接相談にいくよう僕に指示しました。
 
 その日、たまたまC関とは支度部屋が同じでした。C関が座って髷を結っているところにコッソリ近づいていったんです。
 
『自分もいいッスか』と頭を下げました。C関は『やるの? いいよ』とあっさりしたものでした。ただし、『今場所は無理だ。来場所からだな』といわれました。要は、今場所の八百長のスケジュールは全部決まってしまっているから、来場所から入れてやるということだったんだと思います。もちろん八百長という言葉は一切使いませんでした。
 
 C関は八百長仲間に顔がきく人で、C関を通じて『山本も仲間に入れてやってほしい』と伝えてもらったわけです。一度、八百長グループに入ったら、もう抜けられません。自分の場合は日大OBを中心とする小さなグループを窓口にして、大きな八百長グループに入れてもらったというイメージでしょうか。ほかにモンゴルや一門といった小さなグループがあるようです。
 
 次の2009年7月場所の初日、モンゴル力士と星のやりとりをしました。これが幕内での初めての八百長です。
 
 支度部屋でボーッと座っていると、同じ支度部屋にいたC関にいわれました。
 
『今日、お前フチと当たるだろ。フチが頼むぞっていってたぞ』
 
 フチとは、現在も幕内で相撲を取っている時天空関の本名フチットバータルの略です。『頼む』というのは、つまり“負けてくれ”ということです。
 
 時天空関には前の場所の初日にガチンコで勝っていました。「こいつには勝てない」と思ってC関を通じてもちかけたんでしょう。
 
 その後、C関に『オレが(時天空の分を)返すから』といわれました。後にその場所でC関と当たり、勝ちました。たしかつり出しでしたが、自分の決まり手につり出しはないので、これも不自然な勝ち方です。
 
 この場所での星回しは2番だけでした。結局、10日目に玉乃島関に叩き込みで負け、そのときに肋骨にヒビが入って休場。十両に陥落することになりました。
 
 十両に落ちてからも、『山本山は上で八百長を始めた』とすでに知れ渡っていたので、八百長をもちかけられました。翌9月場所では15日のうち6日は八百長で、3勝3敗。あとの9日はガチンコで6勝3敗だったので、9勝6敗と勝ち越しました。おかげで、次の場所ですぐに幕内に返り咲くことができました」
 
 このように、時天空との八百長を明かした元山本山だが、さらに実名を挙げ、八百長の事実を語る。
 
「幕内に上がって初めての八百長の相手は時天空関でした。彼のように私が八百長をやった相手で、今もまだ現役で土俵に上がり続けている関取がいます。
 
 2009年11月場所の9日目には、朝赤龍関に70万円で星を売りました。
 
 付け人が『朝赤龍の付け人です。関取が今日、お願いしたいといっています』といってきたんです。顔見知りではなかったけど、こういう会話はしつこくやってはいけないので『いいですよ』と答えて返しました。
 
 そこで支度部屋を見回しました。恵那さん(八百長を仲介する人物=中盆といわれていた恵那司。八百長に関与していることが指摘されていた皇司(現・若藤親方)の付き人だった)が“巡回”してないか探したんです。ちょうど見つかったので、『朝赤龍関からもちかけられたんスけど、どうしたらいいッスか』と聞きました。
 
 事情を聞いた恵那さんは朝赤龍関か付け人のところに行ったようです。すぐに帰ってきて『買い取りで70万っていってます』といってきた。自分は70万円は高いなァと思ったんですが、恵那さんは『幕内では70万円でも安い。断わってもいいですよ』といってました。
 
 でも、自分はその場所は負けがこんでいて、どうせ十両に落ちるからどうでもいいやと思っていたんです。後日、お金は恵那さんを通じてもらいました。
 
 その場所の14日目の相手は黒海でした。初顔(2009年3月場所14日目)のときに僕がガチンコで勝っていたので、黒海関と同じ追手風部屋に入門した日大相撲部同期の力士のF(廃業)を通じて『関取が転んでほしいといってるよ』といってきたんです。同期の頼みだったし、OKしました。
 
 ただ、僕はその日の夜に体調が悪くなり、病院でインフルエンザと診断されて休場し、黒海には不戦敗になりました。だから、今でも星をひとつ貸している状態なんです」
 
 この2009年11月場所で2勝12敗1休と大きく負け越した山本山は、十両に転落。ケガの影響もあって、その後、幕下、三段目へと陥落する。そこに八百長問題が起こり、26歳で引退に追い込まれた。幕内在位は5場所で、通算29勝41敗5休。最高位は西前頭9枚目だった。
 
「星を売ったカネで回収できていないのは黒海関だけですが、他にも星の貸し借りで『借り』が残っているものもあります。
 
 実はクビになってからしばらくした後、恵那さんから久しぶりに『迷惑をかけてすいませんでした。清算どうします?』と連絡があったんです。自分は『また問題になるのも嫌なので、もう終わりにしましょう』といいました。きっと、いまだにうるさく騒いでる者がいるんでしょうね。
 
 もう自分は角界と関わることはないと思います。でも、僕のように道を外れる力士が出ないような健全な大相撲に、早く変わってほしいと心から願っています」

 まだ星の貸し借りの清算でモメているというのも呆れた話だが、より大きな問題は、八百長をやっていながら、いまなお現役を続けている力士の存在だ。山本山が名前を挙げた3人の力士と親方1人を、7月の名古屋場所中に直撃した。
 
 黒海は「もうその話はやめろよ」と一言いうと、口をつぐんだ。
 
 朝赤龍は「誰がそんなこといってるの。知らないよ」とだけいい、時天空も「知らないよ。ないからこうやって残ってるんじゃないの?」と八百長を否定した。
 
 やはり名前が上がった元・皇司の若藤親方は、
 
「(八百長は)やっていません。だから協会に残っているし、調査委員会もそういう判断をした」
 
 と否定し、こう続けた。
 
「私はケガをして十両から転落し、自分で納得して相撲を辞めたが、そうでない力士が多いからね。調査委員会にいきなりクビといわれて弁解もできないとなれば、不満を持つ者が出てくるのも仕方がない」
 
 本誌は山本山の告白内容を相撲協会に伝えたが、「充分な調査を行なう時間的余裕がないので、残念ながら回答期限までに回答できない」という返答だった。
 
 大量の力士に引導をわたした相撲協会。だが、それをもって「もう八百長力士はいない」と嘯くようでは、角界の再生など望むべくもない。
 
※週刊ポスト2012年8月17・24日号

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