「Poor Ukraine」(かわいそうなウクライナ人)――。
そう題されたSNSまでネットに登場した。ウクライナ体操男子への同情論が世界中で沸き上がる。
〈悲惨な決勝だった〉
〈ただ滑ってこけただけ〉
栄えある表彰式で、英国紳士たちが怒号を浴びせたことでも波乱の事態の一端を窺えるだろう。
7月30日の体操男子団体決勝。内村のあん馬はバランスを崩して着地したことで13.466点と得点される。だが、日本の抗議によって14.166点に修正されたことで日本の総合得点は271.952点となり、英国、ウクライナを抜いて銀メダルを獲得した。
試合後、ウクライナ体操男子コーチのユリ・ククセンコはこう憤慨したという。
「陸上競技では、100m走なら100mをどう走るかが勝負だ。しかし体操の場合は95mだったり、105mだったりする」
順位確定後、ウクライナの選手は会場内の取材エリアでも取材陣にノーコメントを貫いた。ウクライナ五輪委員会関係者が語った。
「選手たちも判定にうんざりしている様子です。だから競技後にコメントを出さなかったんです」
日本選手団の審議申し立てはルールで認められているもので、本来是非を問われるのはビデオ判定によって点数を覆した審判団のはずだ。それでも海外メディアの論調は厳しい。
〈奪われた!〉――銀から銅に“メダル格下げ”になった英国の新聞「デイリーメール」はそんな扇情的な見出しの記事を掲載した。
判定の不可解さは当の日本体操協会男子審判部長の後藤洋一氏が、「難しい判定だったと思う。降り技を認めるかどうかはグレーゾーン」と一部のメディアに答えていることからも明らかだ。さらに、内村の得点に0.7点の加点をされたことに対して続けた。
「C難度の降り技が認められれば0.6点。D難度なら0.9点のプラスになる今回は0.7点、何が増えたか分からない」
日本体操協会の審判部長でさえも首を傾げる判定だった。
※週刊ポスト2012年8月17・24日号