ベストセラー『がんばらない』の著者で、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、東日本大震災の被災地支援のため、たびたび現地入りしている。そして、チェルノブイリの子供への医療支援にも取り組んだ経験を持つ鎌田氏が、仮設住宅の現状と問題点について語った。
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骨折治療中も松葉杖をつきながら福島の子どもたちを守りたいと思い、講演を繰り返してきたが、足が良くなり、福島で久々に巡回診療を行なった。目的は仮設住宅に住む人々の心や体のケアである。
夜は、南相馬市で「震災から500日。あなたの素朴な疑問を一緒に考えよう。そうだ、先生にきいてみよう」と題した会が開かれた。住民の呼びかけで催されたもので、約400人の小さなお子さんを持つ母親たちが集まった。答えるのは、僕を含めた3人の医師たち。
福島原発から30km圏内にとどまり、避難したのは1日だけ。産婦人科医として地域医療に取り組んでいる、原町中央産婦人科医院の院長、高橋亨平先生。ご自身の体が大腸がんに侵され、肝転移も見られているのだが、命がけで地域医療に取り組んでおられる。
遠藤清次先生は、かつて甲状腺の病気を専門とし、いまは地域医療を行なう「絆診療所」の院長である。福島原発の事故で警戒区域となり、休診に追い込まれた小高地区の小高病院院長だった人。
その後、遠藤先生は会津の病院で働いていたのだが、小高地区の人々が多く住む仮設住宅の住民から強い要望があって、2000万円近くを投資して仮設の「絆診療所」を開いた。しかし、仮設住宅も仮設診療所も2年間の暫定ルールがあり、2年過ぎたら取り壊し、撤退しなければいけない。「医師は、どこにでも仕事はあるが、困難の中で生活している被災住民の苦しみや不安を少しでも取り除こうとして南相馬に戻った」という。
※週刊ポスト2012年8月17・24日号