7月某日、球界の重鎮が一堂に会した。「育成の鬼」と呼ばれた関根潤三氏、「野武士軍団」の豊田泰光氏、「350勝投手」米田哲也氏。球界の草創期から活躍し、すべてを知りつくした3人は、当時のプロ野球のチーム事情をこう語る。
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豊田:昔のコーチは面白かったね。皆を誘って飲みに行って、コーチが門限破りの常習犯だったり。大下(弘=西鉄)さんなんて、コーチなのに他のチームの選手と飲み歩いてきて、朝方に自分の旅館にタクシーを横付けしちゃうんだからね。そんな親分肌の男はいないし、今はコーチといってもカスばかりじゃないか。西鉄は中西さんや僕、ピッチャーがダメで内野手にした仰木(彬=西鉄)、稲尾と、ルーキーをどんどん使って強くなった。最初はボロボロですが、選手は申し訳ないと思って練習するからグングン伸びた。これを忘れてはいけない。
米田:ルーキーは確かに使いづらいですが、監督が腹をくくって起用しないと、そこが完全な穴になってしまいます。新人は使わないと絶対に育ちませんから。
豊田:今の監督は、新人を使って失敗したら自分の責任になるから、ルーキーを使いたがらない。僕がたまに指導しに行ったら、後から電話で「よくいってくれました!」なんていってくる。自分の責任になるのが怖いんだろう。
関根:ボクは選手が育って伸びてくるのを見るのが楽しいんだけど、やっぱり昔と違って、若い選手が故障するのを怖がって指導しているようなところがあると思うね。それだけ今の野球にはコクがなくなっているのかもしれない。豊田さん、若かったら指導者やってたでしょう。
豊田:やらないですよ。野球は見てるけど、つまらないから酒飲んでいるのよ。
米田:ビールですか。
豊田:ワインだね。1本空かないのが悔しい。
米田:昔は大阪で飲んでましたよね。中にはケンカ腰の人もいましたけど。
豊田:ああ、アイツか。アイツと飲むと喧嘩売られとるように思うからな。
関根:わかるわかる。
豊田:関根さんみたいに酒を飲まない人でもわかるんだもんな。少しは大人しくなったかね。
米田:相変わらず「喝!」とかいってますけどね。
関根:結構、変わったみたいだけどね。
豊田:人間、そんなに変わるとは思えないけどなァ。俺たちみたいにね。
※週刊ポスト2012年8月17・24日号