ロシアのプーチン大統領が、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世のロシア訪問について「努力する」と明言した。ダライ・ラマの訪ロが実現すれば、2004年11月以来、3度目となる。しかし、その場合、蜜月関係にある中国との間にすきま風が吹くことは必至だ。
ロシアメディアによると、プーチン大統領は8月1日、ロシア人学生らと懇談した際、ロシア南部のカルムイキア共和国の青年から「ダライ・ラマ14世のロシア訪問を許可しないのか」との質問を受けた。
プーチン大統領は「カルムイキア共和国の仏教徒はダライ・ラマが来訪することを期待しているようだ。ダライ・ラマが訪問できるような方向で努力しよう」と述べて、ダライ・ラマの訪ロを検討することを明らかにした。
しかし、プーチン大統領はダライ・ラマが訪問する場合、「宗教的指導者としてであり、政治的な活動家としてではない。ロシア政府は宗教問題と政治問題を関連づけることには反対する」と語り、ダライ・ラマの訪ロ中の活動は宗教的なものに限ることを強調した。
ボルガ川下流にあるカルムイキア共和国には16世紀に中国から移住した仏教徒のカルムイク人が多く住むことで知られ、33万人の人口中20万人以上がチベット仏教の信者といわれる。
同共和国では、仏教が弾圧されていたソビエト連邦が崩壊後、仏教寺院が再建され、住民の間にダライ・ラマの訪問を望む声が高まっており、2004年11月にはダライ・ラマが同共和国の中心都市であるエリスタ市を訪問し、3日間滞在した。その際もロシア政府はダライ・ラマに対して、「宗教活動だけに制限する」ことでビザを発給している。
カルムイキア共和国ではその後もダライ・ラマの再訪を望む声が強まっているが、ロシア政府は中国との関係を優先して、ダライ・ラマの入国を拒否していた。このため、ダライ・ラマが昨年11月、モンゴルを訪問した際、同共和国から多数の信者がダライ・ラマに会うためにウランバートルを訪れている。
プーチン大統領がダライ・ラマの訪ロに柔軟な姿勢を示したのは、このままダライ・ラマの同共和国訪問を認めなければ、「中国のチベット自治区同様、デモや集会、あるいは暴動が発生し、社会的な不安定状態に陥ることを懸念しているため」と在インドのチベット関係筋は指摘する。
ロシアではイスラム原理主義勢力がチェチェン共和国で独立を求め、テロ活動が頻繁に起こっており、プーチン大統領としては、カルムイキア共和国でもチェンチェン同様、ロシアの安定を乱すような反社会的な行動が発生するのを強く憂慮しているようだ。