ソウルの日本大使館前に「慰安婦記念像」が建てられても、韓国政府は撤去するどころか警官に守らせ、日本大使館にトラックが突っ込んでもメディア・世論は平然としている。最近では慰安婦を「性奴隷」と表現しようと盛り上がりをみせる韓国。「慰安婦問題」が再燃している韓国社会の動きを産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏がリポートする。
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昨年12月、慰安婦記念像ができたソウルの日本大使館前は最近、異様な雰囲気に包まれている。韓国警察の警備車両2台が常時、正門前を固めているが、反日団体のデモや集会はもちろん、日本人旅行者の見物人などで賑わって(?)いる。
中にはスキをついて火炎瓶を投げたり、トラックで突っ込んでくる者までいる。外国大使館の正門にトラックで突っ込んでくるなどというのは、もはやイラク、アフガニスタン並みだ。ところがマスコミをはじめ韓国世論はこれを異様と思わず平然としている。
とくに韓国マスコミは、日本の右翼団体のメンバーが大使館前慰安婦像に「竹島は日本の固有の領土」と書かれた抗議の棒(くいと報じられた)を立てかけ、そのパフォーマンスを捉えた映像をネットで流したことを一斉に「マルトゥク(くい)テロ!」などと大げさに伝え、反日を煽りまくった。
その結果がトラック突進事件だが、国際的常識ではこちらの方こそテロだろう。しかし韓国では反日となると国際的常識など通用しない。
慰安婦記念像のお陰(?)でソウルの日本大使館前はこれまでにも増して“反日名所”になってしまった。今や慰安婦像の背後には常時、警官が3人立って像を守っている。日本人旅行者で記念像の写真を撮ろうとして警官に阻止された者もいる。
慰安婦像は慰安婦問題支援の反日団体(挺身隊問題対策協議会=挺対協)が、大使館デモ1000回記念と称し当局の許可を受けずに勝手に設置した無許可の不法施設だ。日本大使館は外国公館に対する侮辱、冒涜であり国際法違反だとして韓国政府に撤去を要求している。
ところが韓国当局はそうした不法施設を撤去するどころか、逆に警官が守っているのだからお笑い、いや深刻である。“反日無罪”つまり反日なら何でも許されるという国際的常識無視の国家状況が今なお続いているのだ。
これを反米と比べると面白い。韓国では近年、反米も盛んなのだが、反米デモに対しては親米デモがあり、マスコミには反米批判の論調も登場する。
2002年、左派の盧武鉉政権が誕生するに際しては反米ムードが大きく作用した。この年、ソウル郊外で女子中学生2人が米軍車両に轢かれて死亡する事件があった。韓国版の“沖縄”である。反米デモが高揚し、反米団体が犠牲になった女子中学生の記念碑を米大使館近くに設置しようとした。
しかしソウルの米大使館は、日本大使館とは違って国際法および国際的常識でしっかり守られている。周辺100m以内の集会・デモは禁止されているし、大使館前に反米記念碑などとうてい許されない。
反米団体は仕方なく、米大使館からかなり離れた光化門交差点の歩道に設置した。もちろん無許可施設だ。取り締まる側の区役所は反米ムードが沈静化した後、6か月後に「人の通行に邪魔」として撤去してしまった。日本大使館前の慰安婦記念像はすでに半年以上経ったがそのままだ。相手が日本だと、撤去どころか逆に警官が不法施設を守っている!
※SAPIO2012年8月22・29日号