消費税増税法案が国会で可決される見込みだが、これによって増える税収が社会保障とは別のことに使われて消える危険が出てきた。ジャーナリストの須田慎一郎氏が報告する。
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「自民党内だって、皆が皆、『国土強靱化基本法案』に賛成というわけではありません。少なくとも私は反対です」
自民党内で“改革派”の一人と目される、河野太郎衆院議員はこう断言した。
去る6月4日、自民党は同法案を国会に提出した。この法案の最大のポイントは、10年間で計200兆円規模の公共事業を実施することでデフレ脱却と年率5%の経済成長を達成する、というところにある。
もっとも、この法案が提出された時点では、田中角栄元首相時代を彷彿させる時代錯誤ぶりが際立っていたことと、しょせん野党による提案ということもあって注目を集めることはなかった。
だが、状況は変わった。民主党の大臣経験者はこう言う。
「消費増税法案を巡って3党合意が成立し、自民党が準与党の立場を確保するや、このバラマキ法案が事と次第によっては成立しかねない状況になった」
具体的には、3党による消費増税法案の修正協議を通じて、国土強靱化基本法案とリンクするかのような条文が盛り込まれたのだ。
問題の箇所は「附則第18条第2項」で、消費税増税によって得た資金の使途を定めている。ここに「事前防災及び減災等に資する分野に重点的に配分する」という文言がある。
そもそも、消費増税は「社会保障と税の一体改革」を掲げて野田政権が推進してきた。しかし、社会保障改革の全体像が一向に示されない中、ここまで露骨に社会保障以外に使おうとするのならば、言語道断である。前出の民主党大臣経験者はこう話す。
「もちろん、この条文を入れるよう強く要求してきたのは自民党です。この条文通りに法案が可決してしまえば、増税によって増えた税収は『事前防災及び減災等』という大義名分のもと、公共事業に回されるのは必至です」
それだけにとどまらない。官邸および民主党中枢は「消費増税が実現するまでのつなぎとして、今年度の補正予算に一定程度の公共事業費を盛り込もう」と自民党サイドに働きかけをしているという。
そこまでして自民党の歓心を買おうとする官邸の狙いは何か。官邸スタッフによれば、こういうことだ。
「官邸と連動する民主党中枢は、自民党に対して『補正予算を組むためには、まず先に特例公債発行法案を成立させることが必要だ』と持ちかけているのです」
政府・与党にとって、消費増税法案の成立が見えた今、残された懸案事項は特例公債法案、言うところの赤字国債発行法案を今国会中にいかに成立させるか、ということに他ならない。そのために、「バラマキ公共事業を柱とする補正予算というニンジンを自民党の前にぶら下げた」(民主党有力国会議員)のである。
だが、この官邸や民主党中枢のやり口に対して、民主党内から批判の声はほとんど聞こえてこない。自民党の三役経験者がこう嗤う。
「確かにうちの長老連中は補正予算や新年度予算の編成作業にタッチすれば票もカネもついてくると期待している。だが、それ以上に皮算用しているのは民主党議員のほうでしょう。あちらは『コンクリートから人へ』などというスローガンを掲げたために、“実績”がなくて焦っている」
野田首相は7月27日の参院社会保障と税の一体改革特別委員会で、税増収分の使途について「すべて社会保障財源化し、ばらまきに充てることは一切ない」と述べた。だが、民主党有力国会議員はこう言う。
「次の選挙を意識して、皆いかに自分の地元に利益誘導するかということに汲々としている。ここへきて3兆円を超える事業規模の整備新幹線の着工が決定したのも、その文脈だ」
この国はシロアリに確実に食い尽くされようとしている。
※SAPIO2012年8月22・29日号