2006年の小泉純一郎首相以来、首相の靖国神社参拝は、途絶えている。いまこそ野田首相は終戦記念日に靖国神社に参拝すべきと提言するジャーナリストの櫻井よしこ氏が、その真意を語る。
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戦後の歴代首相はほとんどかかさず靖国神社を参拝してきました。しかし1985年8月15日の参拝の後、中曽根康弘首相が中国の圧力によって以降の参拝を中止してから、10年以上にわたって途絶えてしまいました。
1996年7月29日に橋本龍太郎首相が参拝しましたが、内外の反発を受けて、再び首相の参拝は中断しました。
2001年に「8月15日に靖国神社を参拝する」と公約して首相の座についた小泉純一郎氏は計6回参拝し、最後には8月15日の参拝を実現しました。参拝の仕方は作法を無視したいい加減なものでしたが、中国の内政干渉に屈しなかったという一点において、私は評価しています。
安倍晋三首相は、官房長官時代は参拝を明言しながら、首相になると参拝の意思を明らかにしない曖昧路線をとり、結局参拝しないまま首相の座を降りました。
その後、親中派の福田康夫首相は最初から参拝の姿勢をまったく見せず、麻生太郎首相は行くつもりだといいながら、結局参拝しないまま退陣しました。
民主党政権が誕生すると、鳩山由紀夫首相は自らが参拝するどころか閣僚に参拝自粛を求めました。そして菅直人政権によっても同様の方針がとられ、民主党政権のもとでは、2年にわたって1人の閣僚も参拝しないという異常な事態となりました。
鳩山氏も菅氏も、国家や国民という意識が欠落した、およそ宰相には相応しくない人でした。しかし、野田首相はかつて「A級戦犯はもう存在しない」と言明しています。ならばその信念を貫いて、8月15日、堂々と参拝すればよいのです。
国家・国民のために殉じた英霊を慰霊するのはどの国でも当たり前のことで、アメリカでいえば大統領がアーリントン墓地に行くのと同じことです。他国から内政干渉される筋合いのものでは決してありません。
大事なことは、参拝の際に、なぜ靖国神社を参拝するのかについて、明確なメッセージを内外に発信することです。
「靖国神社に参拝することは軍国主義を賛美するものではなく、日本は軍国主義に走ることはありません。国に殉じた多くの人々の魂を鎮めるべく、敬意を払い感謝の念を捧げるのは、当然のことです。日本国の首相として、21世紀の日本がどの国よりも真剣に自由と人権を守り、国際社会の平和、国際法の遵守に貢献することを誓います」と宣言すればいいのです。
今年5月、安倍晋三氏が会長を務める「創生『日本』」の東京研修会の壇上で、安倍氏は靖国参拝をしなかったことを非常に後悔していると発言していました。それほど首相在任中の決断は重く、取り返しがつかないものなのです。
首相経験者のこうした後悔を、野田首相には繰り返してほしくありません。
※週刊ポスト2012年8月17・24日号