最近ネット上で存在感を増す“ネット右翼”(ネトウヨ)に共通するのは、新聞、テレビなどマスメディアに対する不信である。彼らの言動には疑問が多くても、その不信感には首肯すべき点もある。ネット社会とジャーナリズムに詳しい日本大学・福田充教授がネトウヨとマスメディアの関係を読み解く。
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メディア研究では「ネット世論は過激化しやすい」という考え方が一般的である。フラットなコミュニケーションなので、上下関係や権力関係のないところで自由な議論ができ、かつ匿名性が高く、議論の責任を取る必要性もないからだ。そのような状況でフレーミング(炎上)も発生する。
またそれは集団極性化現象(グループ・ポラリゼーション)というモデルからも説明できる。ネットでの集団の議論の中で、平等性が高まり、匿名性が高まっていくと、自由に発言しやすい状況ができ、意思決定が極性化(極端化)するという考え方だ。
では、なぜネットで左翼的方向ではなく右翼の方に極端化するのか。こうした傾向は日本だけでなく中国でも韓国でもネオナチの問題を抱えているドイツでも同様だ。多くの国でナショナリズムと結びついて右翼化するという側面がネットの世界にはある。
その理由を一括りにして語ることはできないが、日本では戦後民主主義の下でナショナリズムや愛国主義がタブー化され、自由に発言できない時代が長く続いた。さらにマスメディアが左翼的、人権派的に体制化されていたことから、中国や東アジアに対する批判はタブーとなり、「有事」や「危機管理」という言葉も使うことがためらわれた。
そうした戦後のマスメディアが作り上げてきた閉鎖的な言論空間の中で、言いたいことがあるけど言えないという「抑圧された声」が、インターネットが普及した1995年以降、一気に噴出するようになったと考えられる。
さらに2000年代に入ってブログやソーシャルメディアの登場により、その動きに拍車がかかった。ネット世論の右傾化は戦後のマスメディアが作り上げた偏り硬直化した言論に対する不信や反動という側面が強い。
ネット世論がナショナリズムと結びつきやすい理由はそれだけではない。かつては地域社会のコミュニティ(家族、職場、ご近所など)なるものが存在していた。しかし、コミュニティが崩壊するにつれて、家族や職場の人間関係が希薄化。今の若者は帰属(所属)意識が乏しく、自分は何者なのか分からなくなる、いわゆるアイデンティティ・クライシスに陥っている。
帰属集団を失った現代人は原子化し、「日本」や「日本人」といった大きな物語であるナショナリズムと結びつきやすくなるのだ。
※SAPIO2012年8月22・29日号