日本のエレクトロニクスが危機に瀕している。各社が空前の赤字を計上し、半導体大手のルネサスはついに国内の工場の半分以上を閉鎖・売却する大規模リストラに追い込まれた。不況、大震災の後遺症……経営不振の理由はいろいろあるが、大前研一氏がシャープの経営危機について解説する。
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「鴻海がシャープを丸ごと買収するのでは」といった話が新聞を賑わせている。
『日本経済新聞』電子版(6月25日付)によれば、シャープと資本提携したEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の台湾・鴻海精密工業を率いる郭台銘(テリー・ゴウ)会長が、「今のおたくの株価なら、うちはシャープ本体を丸ごと買収することだってできるんですよ」と、シャープ幹部にすごんでみせたという。
だが、これらの報道は表層的だ。そもそも、なぜシャープは3800億円もの大赤字を出して経営危機に陥ってしまったのか? その根本的な理由を考えねばならない。
答えは「台湾企業の勃興」である。いまエレクトロニクス分野では、台湾勢が圧倒的に強い。鴻海だけでなく、PCや周辺機器メーカーのASUS、ノートPC受託生産大手のクアンタ・コンピュータ(広達電脳)やウィストロン(緯創)など約10社がグローバル市場を席巻している。
台湾勢の強みは、日本を知り抜いていること、中国を自由自在に使えること、世界に売る方法がわかっていることだ。
いずれの会社も、日本から機械、基幹部品、基幹材料を買ってきて中国で組み立て、世界中に売りまくるというパターン(チャイワン・モデル)である。そういう点では、韓国のサムスン電子も同じ成功の方程式を持っている。
台湾は世界から「国家」と認められず、国連にも加盟できないので、国民も企業も危機感を持ち、日本に学びながら勉強を続けている。だから日本が強かった半導体や家電分野で強くなり、今や日本を凌駕するようになったのである。
※SAPIO2012年8月22・29日号