日本に対して過剰な意識を抱く韓国人は、何かナショナリズムを刺激する事態が起こるとすぐにネット上で大騒ぎするが、日本との間に直接、具体的な問題が発生していなくても、ネット上にはつねに反日ナショナリズムが跋扈している。その象徴が、左派の金大中政権誕生以来、盛んになった“親日派狩り”だ。
そこでは日本統治時代に日本に協力的だった有力者のリストである『親日人名辞典』(2009年発行)が、まるで六法全書のように使われる。
例えば、昨年10月に行なわれたソウル市長選の際、保守政党のハンナラ党(現セヌリ党)の候補者、ナ・ギョンウォン氏について、『親日人名辞典』の記述をもとにした「祖父が親日派だった」という情報がネット上に広まり、「この国を親日派に差し出すな」といった書き込みが相次いだ。実は辞典に掲載された人物は羅氏の祖父と同姓同名の別人だったのだが、羅氏陣営がそのことを訴えてももはや遅く、誤情報に悩まされた末に落選した。
昨年12月には人気女優イ・ジアの祖父が辞典に載っている親日派だったことが判明した。ネットに書き込まれた声の多くは「祖父が日帝の庇護の下で金を儲け、イ・ジアはその金で育ったのだから道義的責任がある」などと厳しく批判するものだった。
ネット上での親日派バッシングは辞典の発行以前にもあった。その代表例は、2005年春、日韓両国で『殴り殺される覚悟で書いた親日宣言』を出版した人気タレント・歌手の趙英男(チョ・ヨンナム)に対するものだ。
著書の内容は「日本に行ってみたら、日本人は親切だった」というような軽いノリの印象記だが、靖国神社を見学したエピソードを書いたり、著書に関して産経新聞のインタビューを受けたりしたことがネット上で反感を買い、「靖国神社を参拝するとは何事だ。恥を知れ」「よりによって極右の産経新聞のインタビューに応じるとはあまりにも愚かだ」といった書き込みが相次いだ。
ネット上で熱心に活動する愛国団体として有名なのが、1999年に設立されたVANK(Voluntary Agency Network of Korea)。「韓国の正しい姿」を世界中に広めるためにネットを介して宣伝、工作活動を行なう民間団体で、「民間外交使節団」を自称する。
2005年からこのVANKの中心的な活動になっているのが「ディスカウントジャパン運動」なるものだ。竹島問題、日本海呼称問題、従軍慰安婦問題など日韓で対立している問題について、世界中の公的機関、民間機関に自分たちの主張に沿った記述をさせるため、抗議文書を送りつける「サイバーデモ」を行なっている。
会員数はここ5年余りで5倍の7万5000人余りに膨れあがった。そればかりか、今年7月には、官民一体となってネット上で活動を行なうための覚書を政府の外交通商部との間で交わした。今後、VANKと外交通商部が共同で、青少年500人が参加する「青少年デジタル外交官養成プロジェクト」を始める予定だ。
このVANKは日本のネトウヨ(ネット右翼)から目の敵にされている。日本のネトウヨは、2010年2月、バンクーバー五輪でキム・ヨナが浅田真央に勝って金メダルを獲得すると、キム・ヨナを中傷する書き込みを2ちゃんねるで行ない、同時期に韓国人留学生がロシアで暴行されて死亡した事件についても「よくやった」などと書き込んだ。
これに韓国のネットユーザーが怒り、2ちゃんねるに「F5アタック」(F5キーを叩いて集中アクセスを行なうこと)を仕掛け、多くの掲示板を一時的にアクセス不能に追い込んだ。ネトウヨを含む日本のネットユーザーも反撃し、VANKのHPを一時的にアクセス不能にした。日韓のネトウヨが激突したサイバー戦争だった。
※SAPIO2012年8月22・29日号