毎夏、日本中を熱狂させる甲子園。最近では150キロを超える球を投げる高校生も登場しているが、彼らの成功の秘訣はどこにあるのか、作家の山藤章一郎氏が報告する。今年は夏の甲子園・岩手大会準決勝で球速160キロを記録した花巻東の大谷翔平が大会前から話題となっていた。
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松坂は156。マー君は155。横浜ベイスターズを日本一に導いた権藤博氏は、いま中日の投手コーチを務める。新人で35勝を挙げた輝きの経歴を持つ。「権藤、権藤、雨、権藤」と言われ、連投連投また連投。沢村賞を受賞したが、肩を壊して30歳で引退した。
「160キロ投げる高校生、そりゃ凄いですよ。しかし、このあとプロの環境にいかに順応できるか。それがカギです。ダメになったピッチャーはいくらでもいます。教えすぎの弊害なんです」
教えてうまくなる選手はプロに要らない。プロになる者は、初めから才能を持っている。巨人の杉内俊哉は140しか出ない。だがチェンジアップがあるから、あのまっすぐに、かすりもしない。それが才能だと、権藤氏はいう。
「あのね、バッターは球見てバット振ってるわけじゃないんです。ピッチャーのモーションに合わせてタイミングを取ってる。速いだけじゃ、空振りは取れない。だから大谷も、155キロ出す菊池雄星も打たれる。良い選手とは、肩が強くて足が速いこと。大谷がプロで通用しないといってるわけじゃないんですよ。分からないと」
新人からプロへの道、権藤氏は分からないことが多いという。そもそも甲子園に向かって、若い肩で速い球を投げさせ、連投連投させる高校野球。いかに多くの逸材が、連投でつぶれていったか。それでも、松坂が生まれ、江川、桑田がいる。分からない。
「大谷も、大事に育ってほしいですね。教えず、本人の順応、成長を黙って見る。これが160キロ投手を育てるただひとつの途です」
※週刊ポスト2012年8月31日号