永田町の景色はお盆の前と後で一変した。
お盆前、野田佳彦首相が、「近いうちに国民に信を問う」と口約束すると、自民、公明両党は内閣不信任案採決であれほど批判していた野田内閣を「信任」したうえで、民自公3党で国民生活を地獄に突き落とす消費増税法を成立させた。大新聞は「歴史的な一歩だ」(読売)と社説で絶賛した。
だが、これを境に増税3党は坂道を転落し始めた。
自民党では“若手の切り札”の小泉進次郎氏をはじめ、元幹事長、元大臣など有力議員7人が不信任案採決で造反。民自公はこれ以上の造反を恐れて参院での野田首相問責決議案を「採決しない」と決めた。国会議員の責務である採決さえできないのに、「決められる政治」とは聞いて呆れる。
それでも、谷垣禎一・総裁と石原伸晃・幹事長は9月8日会期末を見据えて「今国会中の解散を求める」と口では威勢がよかったが、それはお盆前のこと。大阪維新の会への合流をめざす民主・自民などの若手議員のステルス造反部隊の存在が発覚すると、自民党執行部は青くなった。
野田首相側近は「本当は民自公のどこも解散を望んでいない」と語る。
「違憲状態の一票の格差を是正しないまま解散すれば、選挙後に最も1票が軽い野田首相の千葉4区はじめ違憲状態の選挙区で次々に当選無効の判決が出る可能性がある。近いうちといっても衆院定数是正をやって解散準備が整うのは最短でも11月だ。
今国会の解散などありえないことは谷垣、石原も最初からわかっている。自民党は維新の会が恐いし、公明党も支持者の創価学会員に消費増税への批判が強く、『いま選挙になると学会の運動員が動いてくれない。ほとぼりがさめるまで解散は待ってほしい』と官邸に伝えてきている」
そうした中で、9月は21日に民主党代表選、22日が公明党代表選、23日には自民党総裁選が控え、各党は盆明けから党首選の選挙戦に突入する。
民主党では有力候補と見られていた岡田克也・副総理、前原誠司・政調会長らが早くも野田支持を打ち出して世論調査での不支持率が6割を超える野田首相の再選が濃厚と見られている。「ここで総理になっても選挙に負けて退陣する運命。有力候補は火中の栗を拾うより、選挙敗北後の連立交渉や政界再編でよいポジションを得ることを考えている」(民主党閣僚経験者)
一方、自民党でも支持率が野田首相以下の谷垣氏が、「不信任案に乗らずに増税を成し遂げた論功行賞」(財務省OB)で派閥長老グループの支持を得て再選を目指している。まさに総選挙恐怖症の民自公のもたれあいではないか。
※週刊ポスト2012年8月31日号