男性の薄毛と治療に関しては様々な通説がある。たとえば、「ワカメや昆布を食べると太く黒々した髪の毛が生えてくる」「母方の祖父が薄毛だったら自分も薄毛になる」「頭を叩くと髪の毛が生えてくる」などなど。
だが、一体何が正しいのかよく分からないのが薄毛の世界である。そこで最近薄毛が気になり始めた記者(38)はAGA(男性型脱毛症)治療の専門クリニックである銀座HSクリニックの北嶋渉院長に薄毛に関するウソ・ホントを聞いてきた。以下、北嶋氏の解説だ。
【ワカメや昆布を食べると黒い毛がフサフサと生えてくるのか】
それはないと思いますよ。髪を形成する成分としてワカメに含むミネラルなどが挙げられますが、食品から摂る栄養が髪にまで行き渡るのはごくわずか。それよりもバランスのとれた規則正しい食生活や、点滴・サプリメント等による効率的な栄養の摂取を行うことで、頭髪治療の効果は高まります。
ワカメや昆布と髪の関係は、はっきりよくは分かりませんが、ある本は、ワカメのイメージが黒いから、髪との連想があったのでは? と指摘しています。日本人の髪の毛の色が黒いということで「髪に良い」ということになっただけではないでしょうか。金髪の方が多い北欧ならば、「トウモロコシは髪に良い」などと思うレベルかもしれません。
【頭をブラシ等で叩くと毛が生えてくるか】
皮膚を傷つけることで、人が本来もつ治癒力を利用して成長を促す治療は当院でも取り入れています。しかし、セルフケアにおいて、刺激を与えるだけで毛が生えるかといえば…、嘘とは言えませんが、こうすることによって皮膚を傷つけているという側面もありますね。「生えろ! 生えろ!」とあまりに強くやり過ぎて皮膚を傷つける人もいますので、ほどほどにした方が良いでしょう。
【性欲旺盛な男性は薄毛になるのか】
あまり関係ないと思いますよ。「男性ホルモンが薄毛に繋がる」ということは確かにあるので「性欲が強い男性は薄毛」という説が生まれたのでしょう。ただ、「性欲が強い男性は薄毛になりやすい」ということを真剣に調べようとする医師は滅多にいませんよね……。私自身は「性欲旺盛=薄毛」だとは思っていませんが、ただし、すべてを嘘だと決めつけてはダメだと考えていますよ。正しい治療があるかもしれない。ニュートラルな視点で見ていかなくてはいけない。
男性ホルモンと薄毛の関係を知る必要はあります。薄毛というものは、男性ホルモンのテストステロンと毛乳頭の中にある酵素である5αリダクターゼII型が結びついて、発毛を抑制するDHT(ジヒドロテストステロン)が発生することによってなるものです。これを防ぐ薬であるフィナステリドを服用すればDHTの発生を回避できます。こういった薬は医師でしか処方できないので、悩んでいる方は医師に相談した方がいいでしょう。
【母方の祖父が薄毛だったら自分も遺伝で薄毛になる】
遺伝はある程度は関係します。ただ、どの遺伝子が薄毛に影響する、というのは分からないので、「母方の祖父」という断定はなかなかできないのではないでしょうか。薄毛に関し、よく分からない都市伝説がある理由は何か――人によってはコンプレックスになったりもしますし、「これが効く」というハッキリとしたものがなかったため、妙に憶測だけで様々な説が出てきたからだと思います。ここ5年、薄毛対策の薬の認知度は高まりつつあるので、そろそろ都市伝説も収まり始めるかもしれませんね。
【皮脂を取れば薄毛にならないのか】
皮脂はあまり関係ないですよ。結局はDHTの発生が薄毛につながるわけですから。昔の人はシャンプーをしていませんでしたが、薄毛の率はさほど変わっていないことでしょう。
【帽子をかぶり続けているとムレて薄毛になるか】
ムレたらはげるか? ということですが、ムレた結果、皮膚が赤くなったり、フケが大量に出る、とか、は良くないですが、むしろ帽子をかぶることによって紫外線を防御するので良いかもしれませんよ。野球選手は年中帽子をかぶっていますが、別に野球選手の薄毛率と一般の薄毛率は変わらないのではないでしょうか。
【ストレスで薄毛になるか】
これもよく言われる説ですが、ストレスって誰にもあるものですよね。薄くなり始めた時期とストレスを感じた時期が丁度重なって、“この時期薄くなった!”と言ってることでは。AGAではありませんが、円形脱毛症はストレスが原因、という説がまかり通っています。しかし、1995年の阪神淡路大震災の時に、ストレスと薄毛の関係を調べた皮膚科医がいたのですが、薄毛になった人が増えたという結果は見られませんでした。ストレスはあまり直接的には影響しないと私は考えています。