4年に一度の祭典が閉幕し、さびしさを感じつつも、ゆっくり眠れることに安堵している人も多いだろう。しかし、お隣の中国では少々事情が異なるようだ。
「中国にとって五輪は国威発揚の重要な場。毎晩徹夜で選手たちを熱烈に応援した結果、五輪が終わったいまでも極度の興奮や緊張で食事や睡眠に異常を来し、目の病気や胃腸炎、不眠といった“五輪病”の人が続出しています」(中国在住の日本人ジャーナリスト)
ここまで国民を熱狂させるのに一役も二役もかったのが中国メディアである。
思い返せば大会初日、中国は女子エアライフルで易思玲が全競技を通じて初の金メダルを獲得。競泳などでも金メダルが続き、上海で人気の夕刊紙・新民晩報が「五輪初日は中国の日」と報じるなど国民の士気は一気に高まった。
「新聞は1面に国別のメダル数を連日掲載し、『世界中が米中のメダル戦争に注目』などと煽りまくっていました。正に国の威信をかけた戦いといった感じで、過熱する報道には殺気立ったものさえ感じました」(前出・ジャーナリスト)
このような勝利への執念は、世界中で批難の的となったバドミントンの無気力試合に対する報道にも表われていた。国営テレビのCCTV(中国中央電視台)は、「ルール上の綻びが問題」と報じ、新聞の世論調査では、国民の27%しか失格処分に反対していないにも拘わらず、記事上のグラフでは27%の部分を赤で強調。「絶対に受け入れがたい処分」といった見出しまで付けた。
しかし、大会終盤になるとメダル数が伸び悩み、アメリカとの差は開く一方。頼みの綱だった“国民的英雄”である110メートルハードルの劉翔が棄権すると、さすがの中国メディアも意気消沈。「五輪で何度も走らなくても劉翔の偉大さは既に証明されている」「彼こそが真の金メダリスト」とこぞって国民の情に訴えた。
女子高飛び込みで陳若琳が金メダルを獲得した際には、「28年間で200個目の金メダルを獲得。この成績は五輪の歴史上、大変すごい」とメダル数での敗北が濃厚だったため、通算メダル数を持ち出し自賛した。
※週刊ポスト2012年8月31日号