2020年までの経済成長戦略を示した「日本再生戦略」が7月31日に閣議決定された。だが大前研一氏は、これをあまりにも“お粗末”と批判した上で、ローカル・ルールの導入こそが急務という。以下、大前氏の提言である。
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先ごろ政府の国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)が策定した「日本再生戦略」は、あまりにもお粗末だ。
2020年までの目標として「新車販売に占める電気自動車など次世代自動車の割合を5割に」「理系博士課程修了者の完全雇用」「木材自給率を50%以上に」「訪日外国人旅行客を2500万人に」「格安航空の割合を2~3割に」「第1子出産前後の女性の継続就職率を55%に」など11分野に450の政策を掲げ、それによって900万人超の雇用を生み出すとしている。
だが、「国家戦略」上はどうでもよいことや不可能なことばかりである。これを読むだけで、民主党には「成長国家」について何の見識もないことが明らかだ。
今の日本は派遣法などでどんどん雇用を硬直化させ、税金は高く、建築基準法は厳しい――起業する人、投資をする人、外資を敵視した政策のオンパレードである。このままでは、ますます世界から富がやってこなくなる。それを変えるには道州制を導入して、「ローカル・ルール」でやるしかない。
たとえば「大阪都構想法案」が成立したら、神奈川県は「横浜都」を作り、工場や倉庫がなくなって利用されていない京浜運河沿いを住宅街に転換すればよい。そうすれば、横浜から船やモノレールで東京都心へ短時間で通勤できるようになり、その開発プロジェクトには世界中からカネと企業が集まってくる。
建築基準法も国が全国一律に決めるのではなく、道州が自分で決めるべきである。たとえば、サイクロンの被害が多いオーストラリア・クイーンズランド州の建築基準法では、建物の強度がサイクロンの襲来頻度によって三つに分かれている。それと同じように、沖縄には沖縄の、地震がない対馬には対馬の、それぞれ地方の気候と環境に合った建築基準法を定めればよいのである。
そうした地方分権のとば口となるのが橋下徹・大阪市長の大阪都構想だ。橋下氏の登場で道州制は一気に現実味を帯びつつあるが、大阪と共に私が期待しているのは九州だ。リタイアした人たちが九州の温暖な気候のもとで安心・安全な老後を過ごせるようにするアクティブ・シニア構想やアジア向けのマーケットを創り出す戦略を打ち出せば、必ず繁栄するからだ。
※週刊ポスト2012年8月31日号