球児たちの晴れ舞台であると同時に、人生の岐路にもなり得るのが甲子園である。プロのスカウトたちはどんな思いで熱闘を見つめているのか。現地で取材を続けるノンフィクション・ライターの神田憲行氏が報告する。
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今年もまた、バックネット裏に男たちが集結した。プロ野球スカウトたちである。彼らは全出場校が登場するまでネット裏に陣取り、朝から選手たちの動きをチェックするのに余念がない。試合の行方には興味がないから、第4試合の打順が二回りぐらいすると返ってしまう。一群が去った跡にポカンとあいたネット裏の空席は、そこに彼らがいた証でもある。
とはいえ彼らは地方大会からずっとフォローしているので、あらかたの仕事は済んでいる。甲子園に来る理由は、あるスカウトはこういう。
「2年生以下の選手を見るためと、試合外の仕草などを見るため。甲子園での成績はほとんど評価に影響しない」
たとえば優勝候補に挙げられながら初戦で敗退した愛工大名電の浜田達郎投手。浦添商戦で6点を失ったが、ドラフト上位候補であることは疑いがない。花巻東の大谷翔平投手はそもそも岩手大会で敗れて甲子園出場は叶わなかったが、「打撃でも投手としても、依然1位候補」という。
「甲子園での収穫は、なんといっても桐光学園の松井裕樹投手。2年生だけど、現時点で大阪桐蔭・藤浪晋太郎投手と同レベルの評価です」
上位候補はまだいい。問題になるのが指名するのかしないのか、ぎりぎりのレベルにある選手である。むしろその見極めにスカウトの実力が問われてくる。そこで彼らが見るのは、実力の他に「プロ向きの性格がどうか」ということだ。指名するまで話すことを禁じられている選手の性格をどう見極めるか。
「試合前ノックやベンチ内での様子ですよ。用具を投げて後輩に渡したり、佇まいがだらしないと、プロの厳しい世界でやっていけるのか心配になる。高校野球よりもっと自分を律しないといけない世界ですから。これはテレビでは見られないので、現地まで行くしかない」
もっともそういう選手を「やんちゃだからいい」と評価するスカウトもいる。
ほとんどのスカウトは球団との1年契約。指名して断られたり、短期で自由契約になるような選手になると、自分の評価に直接跳ね返ってくる。
「結局、俺はこの子で勝負するという選手を探しに行く」
スカウトたちにとっても、熱い夏である。