今年の夏の甲子園で、桐光学園の松井裕樹投手が歴代3位となる1大会68奪三振を記録した。この記録、左腕としては歴代1位の大記録(右腕も合わせた歴代1位は板東英二)だが、松井に続く左腕2位となっているのが、2005年に時速150kmを超えるスピードボールで甲子園を沸かせ、65奪三振を記録した大阪桐蔭の辻内崇伸投手(現巨人)だ。
辻内はその年の秋のドラフト会議で巨人に1巡目指名で入団。入団7年目となる今年は2軍で7試合連続無失点を記録し、8月16日に初の1軍昇格を果たしたが、22日、登板機会がないまま2軍降格となった。
オリックスとの競合の末、抽選で当たりくじを引いた堀内恒雄前監督の“置き土産”とまで称されたスター候補はなぜ、ここまで伸び悩んでしまったのだろうか。野球担当記者が語る。
「辻内は、巨人の2軍でイジられ役だったんです。練習中も、何かとチームメイトからヤジられる。昔は、東野(峻)なんかがよくヤジってましたね。
ヤジられても、苦笑いを浮かべるだけ。控えめな性格なんです。プロのピッチャーなら、ヤジられたらヤジり返すくらいの気持ちがなければ、やっていけない。もちろん、普段は優しい性格でも良いのですが、マウンドでは鬼にならないと。辻内は良いヤツなんですが、いかんせん『俺が、俺が』という気持ちが足りない」
たしかに、プロ野球の投手は、わがままくらいでちょうど良いと称されることもある。空前絶後の400勝投手・金田正一氏は監督を差し置いて、みずから『ピッチャー・金田』を審判に告げにいったという伝説もあるほどだ。辻内を引き当てた堀内氏も、『悪太郎』というあだ名がつくほどのわがままで、あの温厚で知られる王貞治氏に殴られたこともあった。
引っ込み思案な辻内だが、素材は一級品。潜在能力を生かして、1軍に再昇格し結果を残すことができるか。