規模の拡大を目指す「ボリューム国家」に対し、質の向上を目指す「クオリティ国家」がいま世界で繁栄している。日本の道州と同程度の規模だというこれらの国家の特徴を、大前研一氏が解説する。
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いま世界で繁栄している国には共通点がある。人口が数百万~1000万人、1人当たりGDPが400万円以上で、世界を取り込むのが非常にうまいことだ。これらの国を私は「クオリティ国家」と呼んでいる。規模の拡大を目指す「ボリューム国家」に対して質の向上を目指す国である。
その特徴は、私が提唱する日本の道州と同じくらいの大きさで、日本と違って世界からカネ、企業、ヒトを呼び込むために税金体系を自由に決めており、ほとんどの国は相続税がゼロで所得税や法人税も安いことだ。
代表例はスイスだ。人口約790万人で国内市場が小さいため、自国企業がどんどん世界に出て行って稼いでいる。食品・飲料会社のネスレ、時計メーカー、IWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)やスウォッチ、人材派遣会社のアデコなど世界企業は枚挙に暇がない。
法人税は連邦税と州・地方自治体(市町村)税からなり、連邦税は一律8.5%、州・地方自治体税は3~21%だが、すべての州で持ち株会社と管理会社に対する優遇税制や、新規に設立した会社に対する最長10年の法人税減免制度がある。
相続税はなく、所得税は法人税と同じく連邦と州・地方自治体で世帯単位に課税され、連邦税の最高税率は11.5%、州・地方自治体ごとに課税方式が異なる。世界の有力企業と金持ちに来てもらいたいから、敷居を低くしているのだ。
シンガポールも同様だ。東京23区と同じくらいの面積しかないのに、1人当たりGDPではすでに日本を抜いてアジア最強国家となっている。米『タイム』誌によれば、世界で最も億万長者比率の高い国が人口518万人のシンガポールで、なんと全世帯の18%がミリオネアだという。
また、世界中から優秀な人材を100万人以上も呼び込んだり、7割の家庭がフィリピン人などの家政婦を雇ったり、自国に足りないものは規制を撤廃して何でも“輸入”し、成長の原動力にしている。
※週刊ポスト2012年8月31日号