野田佳彦・首相が沖縄県の尖閣諸島の国有化方針を明言したことで、中国人民解放軍を中心に、日本に対して武力行使を求める言動が公然化している。いま、中国国内で何が起きているのか、チャイナ・ウォッチャーのウィリー・ラム氏がレポートする。
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中国軍内で気になる動きが出ている。中国軍が5月下旬、戦闘機なら尖閣諸島まで12分という福建省沿海部に軍用基地をほぼ完成させたという。米国防総省が軍事衛星で確認しており、新型戦闘機「殲10(J-10)」や「Su-30(スホー30)」、無人攻撃機「S-300長距離地対空ミサイル」などが配備されている模様だ。
台湾軍関係者は、尖閣問題など「東シナ海有事」に備えた最前線基地との見方を示している。
これがただちに尖閣への軍事力行使に結びつくとは限らないが、次期最高指導者と目される習近平・国家副主席は胡錦濤・主席や江沢民・前主席と違って軍部を権力基盤としているだけに、軍の意向に流されやすい。少なくとも軍側からはそう期待されている。
習氏は今後、「軍事カード」をちらつかせながら、「経済カード」や「政治カード」を切ってくるだろう。経済カードは日本が中国に依存しているレアアースの供給を停止することや中国の日系企業に圧力をかけること。環球時報によると、そうした措置は国民の80%が支持しているという。
中国はベトナムなどと領有権を争う南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島など3諸島を「三沙市」に格上げすると発表しているが、尖閣問題でも同じような「政治カード」を使ってくる可能性は否定できない。
中国軍は6月下旬、広東省に配置していた巡航ミサイル部隊を南シナ海の島々を管轄する海南省に移動させたとの情報がある。これなどは政治・軍事カードの併用だ。秋の党大会を控え、習氏は共青団閥との権力闘争に勝利するためにも、日本に対してさまざまなカードを切ってくるに違いない。(翻訳・構成/相馬勝)
※SAPIO2012年8月22・29日号