ロンドン五輪男子体操での最後の競技である種目別ゆかの演技が終わると、内村航平選手(23才)の母・周子さんは涙を流した。そして、長かった“自分自身のオリンピック”をフラッシュバックさせながらいった。
「航平に会ったら、『一緒にご飯食べたいな』といいますね。『お疲れ様』とか『おめでとう』は皆さんからいわれているでしょうから。帰ったら、好きなものをたくさん作りたいと思います」
いつも両手を合わせ、祈るように応援している周子さんだが、そこには理由があった。
「実は航平の演技を高校生になってから見たことがないんです。私が見ると失敗しそうで見られなくて…。いつも目を閉じて祈っていて、会場の“オー”という歓声で演技がうまくいったんだとわかるんです。見るのは必ずVTRです(笑い)」(周子さん)
高校からといえば、ちょうど親元を離れたタイミング。ケガやミスをしないかという心配は尽きないが、成長段階の息子の心に踏み込んでギクシャクするのは避けたいという微妙な母心が、当時はいま以上に強かった。その名残りだろう、今回のロンドンでもそうだったが、普段から大会中は電話もメールもしない。
「会いたいといっても、『会えるわけないじゃん』といわれますからね。とにかく、スケジュールを邪魔したくないんです」(周子さん)
いちばん近くにいたいと思いながら、その気持ちをグッとこらえて応援し続けてきた母は、最後にすがすがしい表情でいった。
「団体予選の後は死んだ気分でしたが、決勝と個人総合で生き返りました。皆さんのサポートのお陰です。応援の疲れはこの後に出るかもしれませんが、これは疲れではありませんね。魔物がすんでいるという五輪では、強い精神力を持っている選手が見えてきます。素晴らしいと思います。
私たちも含めて、もっともっと精神的な訓練もしていかなければならないなと思いました。この先、航平がリオ五輪を目指すというなら、とことん、死ぬまで応援したいと思います。いつも笑顔で生き抜いてほしいです」
※女性セブン2012年9月6日号