高倉健の6年ぶりの主演映画『あなたへ』(全国東宝系)が、25日に封切られる。映画の見せ場は、亡き妻の遺骨を海に撒いて「散骨」するシーン。死ねばお墓で眠り、お彼岸の墓参りを常とする日本人でも、「散骨の是非」を考えさせられる。現在はどうなっているのか。
海上散骨をした遺族のほとんどが、「散骨という選択」に満足している。父親の遺骨を散骨した神戸市内の60代の男性はこう語る。
「オヤジはクルーザーを持つほど海が好きな男でした。口癖は“死後も自分で決めさせてくれ。戒名もいらないし、オレの船で散骨してくれ”でした。やはり悩みましたが、私の子供は1人だけで、孫の代まで墓の面倒を見られるかわからない。そこで思い切って墓を造らず、お寺に永代供養を頼み、一部を散骨しました。
親戚からは非難されましたが、今は死後も自己決定する時代ではないかと思いますし、オヤジの遺志を守ったという誇りがある。年に1度、命日には家族で海に手を合わせています」
それは有名人でも同じだ。一昨年亡くなった芸能レポーター・梨元勝氏(享年65)は、昨年8月、妻・玲子さんが東京湾で散骨した。玲子さんの話。
「散骨は家族の想いで行ないました。こんなに早く亡くなるとは思っておらず、散骨の遺志は聞いていませんでした。でも、芸能レポーター仲間でクルーザーを共同所有するほど海が好きだったんです。亡くなる前日も『(元気になったら)海に行きたいね』と話していたことが、ずっと記憶に残っていました。それでお墓もありますが一部を散骨したいと考えました。
レインボーブリッジを観ながら散骨場所まで行き、お骨を海に撒くと、スッと海に消えていくのが見えて感激しました。主人が喜んで水面から顔を出すんじゃないかと思ったほどです」
また、女優・深浦加奈子さん(享年48)も、両親に散骨された1人だ。父・栄助さんが語る。
「我が家では40年ほど前から、夏に一家で下田の海に行くのが恒例でした。ただ4年前に散骨をしてからは、その意味が変わった。家内などは“加奈子に会いに行く”というんです。散骨したのは逗子ですが、海は繋がっているから、海に行けば加奈子に会える。そういう気持ちになりました」
※週刊ポスト2012年8月31日号