6月の時点では、首相官邸周辺のデモ隊の声や音について「大きな音だね」と驚くばかりの野田佳彦首相だったが、8月22日、ついにデモの主催者らと面会した。
デモ主催者は、Misao Redwolf氏。イラストレーターをしながら、5年ほど前から反原発の活動を始め、現在では官邸前デモを呼びかける中心人物となった。Misao Redwolf氏は、野田首相に会ってどうしようしていたのか、面会直前に、“元ジャーナリスト”で自由報道協会代表の上杉隆氏が聞いた。
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――いよいよ野田首相と面会する直前まで来ましたが、なかなか実現しませんね。
Misao:最初は8月8日の予定が、10日に延期になって、それもなくなった。私たちは総理に原発再稼働中止を求める要請書を突きつけて、聞き入れない場合はまだ抗議を続けますよと宣言することが狙いなので、早く実現させたい。個人的には、もう脅したいっていう一心なんです(笑い)。
――でも会った瞬間、政治的には勝ちだと思う。「オキュパイ・ウォールストリート」(米国で起きた格差社会に対する抗議活動)の代表者がオバマに会えるかっていったら会えないし、チュニジアのベン・アリ(元大統領)にデモの代表者が会えたかっていったら、会えなかった。会った瞬間に、最高権力者がその発想と意見を認めたことになるんだから、それは運動の勝利ですよ。
Misao:私の狙いもそこにあるんです。
でも、官邸は最初、記者クラブだけ入れる形で密室でやろうとしたんですよ。それは利用される可能性があるので、フリー(の記者)を入れるか、官邸ホームページで中継するか、どっちかにしてくれって条件を出して。そしたら中継はやる、ただ技術的な問題で翌日の配信になるっていうから、生中継じゃなきゃダメだと要求したんです。
――でも、野田首相は、なんだかんだ言い訳をしながら、最終的には会わないでしょう。
Misao:やっぱりそうですよね。そのあとどういう戦法でいけばいいのかっていうのは、いま凄く考えています。
――そうしたなかで、あなたがデモの象徴的なアイコンになっている気がします。ところで、腕に入っているタトゥーの意味は?
Misao:右腕はグノーシス(古代ヨーロッパの宗教思想)のアブラクサスという時間の神、左腕はカバラの生命の樹を、自分でデザインして。職業はイラストレーターなので。とにかくタトゥーが入っていることでダメだっていわれるような場所の歯車になりたくないっていうのがあったんですよね。橋下(徹)さんの真逆になっちゃうけど(笑い)。
――日本には60年、70年安保闘争にノスタルジーを覚える世代がいる一方、その下の世代はデモが日本を悪くしたというマイナスイメージを持っている。それを払拭しようとしているのは大きいことです。
Misao:私は安保のときのこととか、一般レベルの知識しかないんですけど、当時はリーダー的な学生も一緒に突入したんでしょう? でも私たちは主に30~40代以上の“大人の”コアメンバーで運営しているので、人生の押し引きとかもわかる。私たちはリーダーでもなくてただの呼びかけ人ですけど、その呼びかけをした私たちが若すぎないから、粘りもあるんじゃないかな。
※週刊ポスト2012年8月31日号