【マンガ紹介】文/横井周子
私的漫画七不思議のひとつ。
<タイトルに「青」がはいる漫画にはハズレがない>。
最近の作品を挙げるだけでも島本和彦『アオイホノオ』(小学館)、咲坂伊緒『アオハライド』(集英社)、加藤和恵『青の祓魔師』(集英社)に中村珍『羣青(ぐんじょう)』(小学館)などジャンルもテイストもばらばら、なのに傑作ぞろい! 今回はそんな「青」の漫画から、夏に爽やかな2作をオススメしたい。
オールド・ミスのヴァランシーが心臓病の告知を受けたことから一気にドラマが動き出すのは『青い城』(宙出版)。
イヤミな母親にいいたい放題されながら、読書だけを楽しみに生きてきた陰気な彼女。だがあと1年しか生きられないとしたら?「私はいまから正直に生きる」というヴァランシーの逆襲がとっても爽快!
“青い城”とは彼女が愛読する小説に出てくる理想郷のこと。受け身だったヴァランシーが、青い城を夢見るだけでは終わらせず、自分の意志で仕事や恋を選びとっていく姿は感動的ですらある。
原作は『赤毛のアン』で有名なモンゴメリの小説だからなんと90年近く前の作品になるのだが、アラサーの冴えない女が周囲の声を気にするのをやめて生きる気力を取り戻す様子はいま読んでも身にしみる…。漫画を担当するのは、1970年代後半から1980年代にかけて『なかよし』(集英社)で活躍した原ちえこという豪華タッグ。読むと元気が出るロマンスコミックだ。
『青い花』(太田出版)は、あーちゃんとふみという幼なじみの女の子たちを描く「ガール・ミーツ・ガール」ストーリー。
鎌倉、由緒ある女子校、演劇部とロマンチックな要素がいっぱいで、かわいらしい絵柄を見ているだけでも気分が華やぐ。
しかも恋の描かれ方は直球ストレート。「好きな人にはふれたい/キスをしたいし抱きしめたいと思う」「こわがらせてしまったらどうしよう」。恋する葛藤を丁寧に追いながら女の子同士の恋愛をごく普通のものとして、淡々とつづっていく。
男女の恋を描いたものでも、こんな風に女の子の性欲を正面から優しく肯定してくれる漫画はめずらしい。
繊細にして大胆な語り口がここちよくて何度も大切に読み返している作品だ。
※女性セブン2012年9月6日号