中国では秋の中国共産党の第18回党大会を前に、避暑地に最高幹部が集う北戴河会議が行なわれるなど最高指導部の人事情報が伝えられている。中国情報で定評のあるニューズウェブサイト「博訊( ボシュン)」は党大会に先駆けて、党政治局常務委員7人と党中央軍事委員13人の名簿を報じた。
それによると、次期最高指導者、習近平国家副主席が軍トップに就任するのは予想通りとしても、軍の経験が皆無の首相と中央規律検査委員である「文官」が軍最高指導部入りするなど、極めて異例な人事配置となっている。
「博訊」といえば、昨年の浙江省での高速鉄道事故で、次々とスクープを連発して、「中国の新たなニュースメディア」との大きな評価を得ており、最近は中国政治の内部情報にも詳しいといわれている。
その「博訊」がこの最高人事情報について「伝聞情報であり、博訊が精査・確認したものではない」とことわりを入れているものの、党と軍の最高指導部人事を伝えたのだから、チャイナウオッチャーたちも色めきだってもおかしくないが、意外なことに香港メディアはこの報道を無視している。それは、専門家の間で特に党中央軍事委員メンバーの予測で疑問の声が出ているためとの見方があるからだ。
まず、党政治局常務委員人事では、習近平が党最高ポストの党総書記に就任。以下、李克強(首相に選任予定)、兪正声(全国人民代表大会=全人代=委員長選任予定)、張徳江(中国人民政治協商会議=政協=主席選任予定)、李源潮(国家副主席と党中央書記処第一書記選任予定)、王岐山(第一副首相選任予定)、汪洋(党中央規律審査委員会書記に選任予定)となっている。
ここまでは、順当な顔触れといえるが、軍の最高指導部を占める党中央軍事委員12人のメンバーには、これまで報道されていないメンバーが含まれている。それが首相の李克強と中央規律検査委書記の汪洋だ。
12人のメンバーを列挙すると、軍ナンバー1の軍事委主席は習近平党総書記、軍事委副主席が李克強首相と張又侠(現在の瀋陽軍区政治委員で、大将)、さらに劉源(現在の総後勤部政治委員)の3人という「トロイカ」体制になっている。
このほかの8人の軍事委員は常万全(国防相選任予定)、章沁生(総参謀長選任予定)、劉亜洲(総政治部主任に選任予定)、張海陽(総後勤部張に選任予定)、劉暁江(総装備部長)、 房峰輝(第2砲兵部隊司令員)、丁一平(海軍司令員)、馬暁天(空軍司令員)。それに汪洋というわけだ。
このように、軍事委員会のなかに、党中央軍事主席を除いて、制服組以外の文民が入るのは、これまで例がない。
さらに、この人事予測では、胡錦濤主席が軍事委主席に居座るとの情報が否定され、習近平副主席が軍事委主席にすることになっている。胡主席が軍事委主席に留まらない代わりに、胡主席の腹心である中国共産主義青年団(共青団)閥の有力幹部である李克強を軍事委副主席に就け、同じく共青団閥の汪洋も軍事委入りさせるという“取引”が行なわれると予測しているようだ。
これが本当ならば、党政治局常務委と党中央軍事委の人事を見る限り、習近平副主席ら太子党(高級幹部の子弟グループ)勢力が共青団閥に大幅な妥協を強いられたといえそうだが、「この人事は端的に言うと、シビリアンコントロールの強化だ。しかし、党と軍の最高人事は党大会直前まで二転三転する。この人事予測があたる可能性はそう高くないのではないか」と北京の共産党筋は指摘する。