「大阪維新の会が合流要請」との報道が一斉に流れたことで、安倍晋三・元首相に注目が集まっている。維新の会との連携やが取り沙汰される中、本人の真意はどこにあるのか。安倍氏に聞いた。
――維新との接触が報じられているが、実際にはどのような話し合いをしているのか。
安倍:今年2月に教育関係の講演会で松井一郎・大阪府知事と対談して以来の関係ですね。私は、維新の会が進めてきた教育条例について、安倍政権で改正した教育基本法の精神を現場で実行していこうとするものだと評価しています。
また、憲法改正の手続きを規定した憲法96条の改定についても、私の政治課題と共通する。こうした大きな壁をぶち破るには相当の起爆力が必要ですが、橋下徹・大阪市長や松井知事は、まさにわれわれが求めていたパワーを持っている。ですから、細かい相違点を探していくことよりも、政策的に同意できる点を重視しながら協力していきたいと考えています。
――橋下徹という政治家をどう評価するか。
安倍:メディア、コメンテーター、評論家と、あれだけマスコミから「民主主義の敵」とバッシングされながら、それをかわすのではなく、真っ向から批判を受け止め、反撃によって跳ね返していきましたね。ツイッター等の新しい武器によって、メジャーなメディアとの戦いを勝ち抜いた。あるいは、日教組や自治労といった、大阪においては厚い基盤を持つ組合組織や関連団体との戦いにも勝ち抜いたということにおいて、まさに瞠目すべきリーダーだと思います。
私も総理になるまでは、真っ向から名指しでメディアを批判したこともあった。たとえばNHKに圧力をかけたと朝日新聞に批判されたとき(※)は、朝日に「議論の場に出て来い」と、リング上のプロレスラーのように吠えたこともありました。しかし、総理という最高権力者になった段階において、私はそうした批判を自制したことで手足を縛られてしまった。その点で橋下氏は、やはり新世代の政治家だと思いますね。
――維新の会とはどのように連携していくつもりか。
安倍:維新の会は日本を変えていく大きな可能性を秘めていると、私は思います。そして、国民の支持を得ている。それは、既成政党への批判の裏返しでもあるかもしれません。そこで、近いうちに行なわれるであろう総選挙で、維新の会は多くの候補者を出してくるでしょう。
いま、国民の希求は政界再編成だろうと思います。保守派の議員が各党に散らばっていて、自民党に多くいますが、民主党にもみんなの党にもいます。維新の会の松井知事や浅田均・政調会長も、かつては自民党の府議で、筋金入りの保守です。そうした保守派の政治家が現在、バラバラに分かれていることで力がそがれてしまっている。
維新の会がいう統治機構の改革は我々の目指す戦後レジームからの脱却と底流に流れる考え方が共通している。その目的達成のためには、郵政民営化のような一点突破ではなく、全面展開で戦いを挑むしかない。それには、各分野にいる同志を糾合して戦いを展開し、国民の理解を得る必要があります。特に憲法改正は、一つの政党でできるわけではありませんから。
――維新の会が国政に進出するにあたり、あなたを維新の会の顔にしたがっている、との報道もある。
安倍:そういう報道があることは知っているし、体調を崩した結果とはいえ1年で政権を降りざるを得なかった私をもし評価していただいているとしたら、大変名誉なことだとも思います。
近いうちに総選挙があります。この選挙の結果を受けて、どういう体制をつくっていくかにおいて、私は維新の会と連携をしていくという選択肢を大切にしていきたいと思っています。維新の方々とは、そうした生々しい政局の話ではなく、日本をどうやって変えていくべきかという、大きな枠組みの話をしている段階です。
――総選挙の前に連携していくことは考えにくいと。
安倍:どういう連携の仕方があるか、いろんな可能性があると思いますから、今の段階ですべて排除する必要はないと思いますね。
※NHKが2001年1月30日に放送したETV特集「問われる戦時性暴力」の番組内容について、2005年1月に朝日新聞が、安倍氏と中川昭一氏(故人)がこの番組の編集についてNHK上層部に政治的圧力をかけたのではないかと報道。安倍・中川両氏は反論し、NHK側も事実を否定した。
●聞き手/長谷川幸洋(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2012年9月7日号