「天才」と言われる人は「特殊脳」を持つことがあると語るのは、『ホンマでっか!?TV』でお馴染みの脳科学者・澤口俊之氏。ここでは、音楽界の天才の中でも筆頭に挙げられるであろうモーツァルトの脳を、脳科学的観点から分析する。
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モーツァルトは、何しろ数百年に1人出るか出ないかの天才。彼は、典型的な「音楽的特殊脳」の持ち主でした。彼が残した非社会的で奇矯な言動は、その副産物であったと考えられます。
現代の一流音楽家の脳を、失礼ながら“その他大勢の音楽家”の脳と比較した研究もいくつかあります。その結果わかったことは、優秀な音楽家は「音楽家脳」という独特な脳を持つということでした。
音楽家脳の特徴は、専門的になりますが、局所的神経回路が密な一方で、広範な神経回路は粗いというものです。簡単にいえば、音楽に関係する脳領域(具体的には側頭皮質の上部領域など)の神経ネットワークが非常に発達している一方で、音楽にさほど関係しない脳領域の神経ネットワークがあまり発達していないということです。
この連載で何度か触れたように、普通の人が、特に子供がピアノ演奏の練習をすると、音楽に直接関係しない神経ネットワークも発達し、語彙が増え「一般知能g」が向上することがわかっています。
ところが、音楽的能力が天才的なレベルまで高まっている人は、神経ネットワークの発達に偏りが生じてしまいます。逆にいうと、そうした偏りが生まれないと天才的な音楽家にはなれないともいえるでしょう。
音楽家脳の偏りは、幼少期からの音楽的訓練などでも生じますが、音楽的才能には遺伝性もかなり関係しています(約60~80%)。つまり、天才的な音楽家脳は遺伝と環境の相互作用によって作られるというわけです。
モーツァルトの場合、父も母も音楽家という遺伝性と環境(訓練を含みます)により、典型的な音楽家脳を育んでいったといえます。そして、その音楽的特殊脳の特徴である「偏り」が、彼の奇矯な言動に結びついたと推測することができるのです。
モーツァルトは、6人の子供を作り、4人が幼くして死去していますが、うち1人(フランツ・クサーヴァー・モーツァルト)は、作曲家になっています。
「音楽関連遺伝子」の存在が実証されてきているいま、優れた音楽家はいつの時代でも現れる可能性があります。現代にも、モーツァルトのような素晴らしい音楽家が出現することを楽しみに待ちたいと思います。
※女性セブン2012年9月6日号