英国人ビジネスマン殺害事件裁判で、元重慶市トップの薄熙来氏の妻、谷開来被告に執行猶予2年付きの死刑判決が下された。この判決は実質的な終身刑とはいえ、受刑者は平均で18年9か月あまりで釈放されていることが分かった。谷開来被告の場合、精神病を患っているといわれるだけに、病気治療の名目で、もっと短い期間で出所することも予想され、判決自体に批判が高まっている。
中国では罪状は死刑執行に値するが、2年間の猶予期間を設けて囚人の反省態度などを加味した上、終身刑にするという例が数多くある。その典型的な例が毛沢東主席の妻、江青だ。江青は「4人組」のトップとして、文化大革命で多くの人々の罪状をでっち上げて、殺害するなどしたとして、文革終了後に逮捕された。裁判では当然、死刑となるとみられていたが、今回の谷開来被告同様、2年間の猶予付き死刑判決だった。
毛沢東夫人としての立場から、猶予付きの死刑判決が下ったものとみられているが、江青は判決の2年後の1983年、無期懲役(終身刑)に減刑された。
谷開来被告も江青の例にならって、猶予付きの死刑判決が下されたものとみられる。江青の場合、1991年5月、がんの治療中に刑務所で自殺したが、通常、終身刑の囚人が死ぬまで刑期を務めることはほとんどない。
北京市が発表した「2006年の釈放された囚人の刑期執行状況」によると、2年間の執行猶予付き死刑判決を受けた囚人は平均18年9か月24日で釈放されており、最も長い囚人は22年5か月と2日。最短だと14年11か月7日だ。
谷被告の場合は、夫の薄熙来が元党政治局員というパワーエリートの一員だったことも考慮されて、「国外での病気治療」という形で2年間の猶予期間が過ぎた段階で、海外に出国する可能性がある。海外出国は、中国国内にいてほしくない民主化運動指導者に多く適用されているが、谷被告の場合、息子の薄瓜瓜氏が現在、米国で生活し、永久市民権も有しているため米国への出国が有力だ。
しかし、中国国内では谷被告に猶予行き死刑判決が下されたことに対し、非難の嵐が巻き起こっている。
香港の代表的英字紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』の黄忠清・北京支社長も「これは政治的決定であり、司法判断ではない」と指摘している。ネット上では「中国の法律は政治に従属している」とか、「猶予付き死刑判決は法律に基づいているのではなく、政治の必要性から出されたものだ」などとの書き込みが相次いでいる。一般市民が外国人を殺害すれば、必ず死刑判決が出て、即刻死刑(銃殺)が執行されるからだ。
法律の専門家である賀衛方・北京大学法学部教授も「これは法律の審判を諷刺している。谷開来の裁判では事件の真相は何も明らかにされていない。このままでは中国共産党への信任が危機を迎える結果を招きかねない」と警告しているほどだ。中国共産党に対する市民の失望は根深いと言わざるを得ない。